カテゴリ:弐章/英雄( 36 )

弐章/英雄/挿話参拾陸/戦いの後、そして繰り返される歴史

燿炎達が露衣土を倒して露衣土城を攻め落とすと、湘の国で展開していた露衣土軍の本隊も難無く討伐軍の軍門に下る事になる。

皇帝を失った露衣土帝国軍の兵達には、もう戦う気力も理由も無かったのだ。

そして氷の大陸の民衆の中には、燿炎達を迎え入れる事に抵抗の強い者も少なからずいたが、それでも、やはり、戦争が終わった事による安堵感に包まれている者達が大半ではあった。

民衆とは現金なもので、今まで露衣土を英雄として崇めていたのに、その露衣土が倒されると、今度は露衣土を倒した燿炎を英雄として崇める様になる。

民衆にとって英雄は誰であってもよいのだ。

平和に暮らす事が出来れば、それでいいのである。

その期待を今度は燿炎に託す事になっただけの事なのだ。

そして燿炎達、討伐軍は他の三大陸に加えて、氷の大陸も制圧する事になり、精霊の星、全体を制圧する事にもなった。

しかし露衣土と同様のやり方では、精霊の星、全体を纏める事は出来ないと考えて、各大陸毎にそれぞれ統治をしていく様にする。

氷の大陸では他の大陸に比べて、討伐軍のリーダーであった燿炎に対する反発も強かった事も考慮して、氷の精霊の守護を受けている事で、氷の大陸の民衆からの受けが良かった凍浬が統治をしていく事となる。

燿炎は故郷を離れて、炎の大陸を統治していく事になり、麗羅が風の大陸を、崩墟が大地の大陸を、それぞれ統治をしていく事となる。

結局、四天王は自らを守護する精霊と同じ系統の大陸の統治をする事になった。

そして凍浬が氷の大陸に留まって、燿炎は炎の大陸へ、麗羅は風の大陸へ、崩墟は大地の大陸へと、それぞれに部下を引き連れて、自分が統治する大陸へと向かう。

その後、氷の大陸と炎の大陸は国土の広さと地域による習慣の多様性から、幾つかの国家に分割した上での連合国制を布く様になる。

風の大陸はそれほど国土が広くはなく、大地の大陸はまだ復活したばかりなので、そこまでする必要がなかった。

こうして精霊の星に束の間の平和が訪れる。

しかし、この平和もそう長くは続かなかった。

三十年程、経った後、炎の大陸を統治していた燿炎が何者かに暗殺されてしまったのである。

混乱の中で民衆は当たり前の様に平和を望む。

しかし平和の中で民衆が平和を望み続ける事はそう容易ではなかったりもする。

平和である事が当たり前になると、今度は混乱を求める者が増えてもくるのだ。

それが、この世の常なのかもしれない。

こうして精霊の星の民衆は再び英雄を失う事になって、徐々に炎の大陸から精霊の星、全体へと混乱が拡がっていく事になる。

そして精霊の星の民衆は再び新たな英雄の登場を待つ事となった。

─────

万象は言った。

『争いに依って手に入れた平和は長続きするものじゃない』

と。

正にその言葉通りになってしまったのだ。

しかし争わなければ平和を手にする事は出来ない。

これも、また、現実なのである。

そんな矛盾の中でこれまで人類は歴史を積み重ねて来て、これからも新たな歴史を積み重ねていく事になるのだろう。

           ☆弐章/英雄☆
                    完
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by gushax2 | 2016-06-24 06:06 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾伍/万事休すからの起死回生

露衣土の部屋の前で燿炎は露衣土と対峙していた。

珍しく風も全く吹いていない。

風も二人の対決を固唾を呑んで、静かに見守っている。

正にそんな感じであった。

幾らか下の階からの喧々たる物音も届いてくるが、激しい戦闘が行われているであろう、下の階とは別世界の様である。

そんな中で先に動いたのは燿炎だった。

燿炎は自らの頭上に、とてつもなく大きな火球を作り、その火球を露衣土へ向けて放つ。

恐らく、これだけの火球を作り出せるのは、この星の中でも燿炎にしか出来ない事だろう。

それでも露衣土は微動だにせずに、そのまま火球に包まれる。

普通なら、これで露衣土の体は跡形も無く燃え尽くされて、勝負は決するはずであった。

しかし信じられない事にその火球の中から笑い声が響いてくる。

「ふはははは」

そして露衣土が声を張り上げる。

「これくらいの炎で私を倒せるものか!」

途端に露衣土を包んでいた火球が一気に消し飛んだ。

露衣土は先程と同じ状態で微動だにせずに立っている。

「くっ、」

燿炎は小さく呻いた。

燿炎には、もう、先程より強力な炎は作り出せない。

燿炎が作り出す事が出来る最大の炎が通用しなかったのだ。

万事休すである。

「どうやら、お前には私に倒される覚悟の方が必要だった様だな」

露衣土が勝ち誇った様に言った。

何も言い返せずに、ただ露衣土を睨みつける、燿炎。

そして露衣土は畳み掛ける様に言う。

「炮炎があの世で寂しがっているぞ。これから炮炎と再会させてやろう」

露衣土のその言葉と共に燿炎は一瞬にして凍らされてしまった。

露衣土からすれば、後は大地の魔法で燿炎の体を粉々にするだけである。

そして露衣土は大地の魔法を使って、燿炎の体を粉々にしようとした。

しかし露衣土が大地の魔法を使っても、燿炎の体は粉々にならない。

周りを見渡すと、いつの間にか、燿炎のすぐ左後方に崩墟、上空に麗羅、燿炎から少し離れた右後方に凍浬と、討伐軍四天王の残りの三人が此処まで、やって来ていた。

そして凍っていた燿炎もすでに解凍されて、元の姿に戻っている。

麗羅が風の魔法で崩墟と凍浬を此処まで連れて来て、崩墟が大地の魔法で露衣土の大地の魔法を相殺し、凍浬が氷の魔法で凍っていた燿炎を解凍したのだ。

「助かったぜ」

解凍された燿炎が言った。

そして燿炎は再び先程と同じくらいの大きさの火球を自らの頭上に作り出して、それを露衣土に放つ。

露衣土もまた先程と同様に微動だにせず、火球に包まれた。

その瞬間、燿炎が叫ぶ。

「麗羅!」

「判ってるわよ!」

麗羅が応えた。

そして麗羅が風の魔法を使って風を操り、露衣土を包んでいる火球に大量の酸素を送り込む。

火球の炎が勢いを増す。

そんな火球の中で露衣土は燿炎に対して、優しい眼差しを向けながら声を掛けてくる。

「本当に強くなったものだ」

露衣土がそう言った途端に火球が一気に消し飛ぶ。

そして今度は火球と共に露衣土の肉体も跡形も無く消し飛んだ。

「露衣土ー!!」

燿炎の咆哮が露衣土城の上空に響き渡る。
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by gushax2 | 2016-06-23 06:55 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾肆/理解を超えた対立

様々な経緯を経て結果的に、なのかもしれないが、燿炎は露衣土に対する理解を深める事となった。

だから燿炎は憎しみを抱いていたはずの露衣土に対して、尊敬の念すら抱く様になってきている。

そして露衣土に対する尊敬の念があるからこそ、燿炎もまた真剣に平和へと向かわなければならない。

炮炎も真剣に平和へと向かった過程で露衣土に殺されたのであって、露衣土もそんな炮炎だからこそ真剣に炮炎を殺したのであろう。

そして燿炎と露衣土はこれから雌雄を決しようとしている。

お互いがお互いの信ずるものの為に相手を倒さなければならない。

その結果、恐らくは、どちらかが死ぬ事になるであろう。

そして、どちらが死ぬ事になったとしても、どちらも恨んだり憎んだりするものではないのだ。

お互いが真剣に平和というものと向き合った結果、相手を殺さなければならなくなっただけの事である。

二人は数瞬の間、目を合わせたまま微動だにしなかった。

そして露衣土が先に燿炎に声を掛ける。

「久しぶりだな」

「そうだな。これだけの時間があれば、お前も十分に覚悟が出来ただろう?」

燿炎は露衣土の声に応えると共に露衣土の覚悟を問うた。

惚ける様な感じで燿炎に訊き返す、露衣土。

「私に一体、何の覚悟の必要があるんだ!?」

「別に惚ける必要は無いだろう」

少し呆れる様に燿炎は言った。

露衣土は微笑みながら言う。

「惚けてなんかは、いないさ。それが現実と云うものだろう」

「何が現実だよ。今のこの状況を理解出来ていないのか!?」

燿炎は不満そうに言ってはいるが、そんな言葉とは裏腹に燿炎もまた露衣土との会話を楽しんでいる様だ。

露衣土は燿炎の問いに対して、不遜に言い放つ。

「私はどの様な状況であれ、何も変わりはしない」

「そうだったな」

燿炎は露衣土の言葉に納得した。

今度は露衣土の方から燿炎に覚悟を問うてくる。

「覚悟が必要なのは、お前の方じゃないのか!?」

「覚悟なら、もう十分にしているさ」

今度は燿炎が微笑みながら言った。

露衣土は感心する様に言う。

「そうか。私に倒される為にわざわざ此処まで、やって来たという事か」

「誰がそういう覚悟をしたと言った?」

燿炎は露衣土の受け取り方に対する疑問を呈した。

正解がなんなのか、露衣土は燿炎に尋ねる。

「じゃあ、どんな覚悟をしたというんだ!?」

「お前を倒す、覚悟さ」

燿炎が露衣土に言い放った。

今度は露衣土が燿炎の言葉に納得して、更に言葉を続ける。

「なるほど。しかし、その覚悟は無駄だったな」

「やってみなければ分からないさ」

燿炎が楽しそうに言った。

露衣土も楽しそうに言い返す。

「お前には分からなくても私には分かる」

「まあ、いい。俺達の間に言葉はもう不要だ」

燿炎が会話を終えようとした。

露衣土が燿炎の言葉に同意する。

「そうだな」

二人は再び目を合わせたまま微動だにしなくなった。

下階では城兵と討伐軍との激しい戦闘が続いている。

しかし此処はまるで、時が止まってしまったかの様であった。
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by gushax2 | 2016-06-22 04:55 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾参/憎しみが理解へ変わるまで

燿炎は久しぶりに露衣土との対面を果たした。

それに拠り、今度は燿炎の頭の中で炮炎が殺された場面が甦ってくる。

─────

「燿炎、まだ、判らないのか?」

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問うた。

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。

─────

いつも夢で見ていた場面であった。

燿炎の中で、なんとも言えない様な感情が沸々と湧き上がってくる。

兄の炮炎を失った哀しみ。

その炮炎を殺した露衣土を目前にして、憎しみが生じてきても当然ではある。

確かに以前の燿炎には露衣土に対する憎しみがあった。

それは否定出来ない。

しかし今のこの感情には不思議と憎しみの様なものは、もう無くなっていた。

だから、なんとも言えない様なものなのだ。

今、燿炎も露衣土もお互いに対して憎しみを抱いて敵対している訳ではなかった。

露衣土は精霊の星を統一する事が平和へと繋がると信じて、その妨げになる者は炮炎であろうとも、燿炎であろうとも、他の誰であろうとも排除するだけの事で、その結果として炮炎を殺す事になり、燿炎とも敵対する事になってしまっただけなのだ。

勿論、燿炎にとっての露衣土は幼馴染みと云う事もあって、長年、共に過ごしてきた事で、その様な露衣土の性格は十分に解ってはいた。

それでも炮炎が殺された時は露衣土に対して、憎しみを抱かずにはいられなかったのである。

その憎しみが露衣土に対しての疑問と云うものを決定的なものにし、露衣土の下を離れて反乱軍へと身を投ずる最大の要因にもなった。

そして反乱軍のリーダーとなって露衣土帝国軍と戦っていく内に、平和と云うものに対する疑問、戦う事に対する疑問、様々な疑問と向き合う事となって、それら多くの疑問が燿炎の内にあった露衣土に対しての憎しみを洗い流してしまったのかもしれなかった。

そして何の迷いも無く、いや、迷いはあったとしても、それを表には出さずに自分が信じた道を突き進む事が出来る露衣土に対して、尊敬の念すら抱く様になっていた。

露衣土は露衣土で真剣に平和へと向かっていたのだ。

真剣であるからこそ、己を貫く事も出来たのではなかろうか。

炮炎がそうであった様に、露衣土もまた、そうであったのだろう。

先ず炮炎が露衣土の想いに応える形で露衣土と対立をする事になった。

そんな炮炎の姿勢に露衣土が応えただけなのだろう。

今の燿炎には、それが十分過ぎる程、理解が出来る様になっていた。

そして自分もまた真剣に向き合わなければならない。

それが炮炎の死に対する報いでもあり、露衣土の想いを受け止める事にもなる。

そんな風に燿炎は思っていた。
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by gushax2 | 2016-06-21 05:47 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾弐/時を隔てた再会

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

とうとう燿炎達、討伐軍の別働隊が此処まで、やって来たのだ。

崙土達を倒すと、後は燿炎達を阻む者は居なかった。

恐らくは、もう露衣土城に強力な将は残っていないのであろう。

露衣土軍の本隊は湘の国で展開して、討伐軍の本隊と睨み合いを続けている。

そして先日、司令官の崙土も倒したのだ。

燿炎達、討伐軍はそのまま露衣土城の中へ突撃して行く。

露衣土城の中へは、すんなりと入る事が出来た。

しかし城の中に入った途端、残っている城兵の襲撃を受ける。

城の中のあちらこちらで魔法に依る戦闘が繰り広げられていく。

それら城兵は他の者達に任せて、燿炎は一人で露衣土の下へと向かった。

燿炎にとっては、かつて知ったる露衣土城である。

懐かしくも感じたが、今は感慨に耽っている訳にもいかない。

それよりも、やけに簡単に進む事が出来る。

露衣土の下へ向かう燿炎を阻む者が居ないのだ。

燿炎は感じ取った。

〈これは罠だと〉

〈一騎討ちをする為だと〉

例え罠だとしても燿炎は戦うしかない。

燿炎達にとっても露衣土との一騎討ちを狙っていたのである。

此処へ来て、露衣土と燿炎達の思惑が一致したのだ。

露衣土にとっても予定通りであって、燿炎にとっても予定通りなのである。

もう少しで城の屋上へと辿り着く。

屋上の広場の先に露衣土の部屋がある。

そこで炮炎が殺されたのだ。

それも燿炎の目前で殺された。

燿炎は屋上へと出る。

燿炎が露衣土の部屋の方へ体を向けると、露衣土が自室の前で待ち構えていた。

燿炎の中で一気に緊張感が高まっていく。

燿炎はゆっくりと露衣土の表情がはっきりと判る位置まで近づき、足を止めて露衣土と向き合った。

本当に久しぶりの対面である。

かつて燿炎はこの露衣土と共に精霊の星を統一するべく戦っていたのだ。

それより以前は炮炎も含めて、幼少時代を共に過ごしてきた幼馴染みでもある。

時には一緒に悪さをして、一緒に叱られもした。

そんな悪童も成長するにつれて、目の前で繰り返される理不尽さや不条理さに疑問を膨らませていく。

そんな中で三人は世の中を良くしようと誓い合ったりもした。

自分達がやらなければ何も変わらない。

世の中を良くする為には自分達が率先して行動する必要があると考えたのである。

そして、そこまでは三人で問題を共有も出来ていた。

しかし、そこから先で違いが出てきてしまう。

問題を解決する手段において、炮炎が一人、意見を違える事になる。

多少、強引にでも改善をしていく必要があるとする、露衣土と燿炎。

そんな二人に対して、軽挙妄動は慎むべきだと炮炎は譲らない。

その後、炮炎は一人で二人の下を去って行く事となった。

一方、露衣土と燿炎は力ずくに依る改善を進めていく事となる。

いつしか、それは統一戦争となって、精霊の星、全体へと拡がっていった。

その後、統一戦争の終結に拠って、露衣土がこの精霊の星を一つの国家の下、纏め上げる事となる。

しかし、その事が結果的に炮炎を敵対させてしまう事にもなった。

そして燿炎にとって実の兄でもあった炮炎は、この先にある露衣土の部屋で露衣土に殺されたのだ。

その事を切っ掛けに燿炎は露衣土と自身に対する疑問を深める事になる。

その後、燿炎は露衣土の下を離れて、反乱軍に身を投ずる事となった。

そして燿炎は反乱軍のリーダーになる。

それから二人は直接対面する事はなかった。

そして十数年の時を隔てて二人は今、再び対面している。

今度はお互いがお互いの敵となって、であった。
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by gushax2 | 2016-06-20 06:13 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾壱/愚者の末路

露衣土討伐軍の別働隊は崖の上からの攻撃には十分に注意を払いながら、澪の谷の底を流れる氷河の上を露衣土城へと向かっていた。

すると突然に崖の上の方から、大小の岩の塊が別働隊に向かって落ちてくる。

やはり露衣土軍は此処で仕掛けて来たのであった。

このまま落ちて来る岩の塊を放っておいたら、別働隊は壊滅状態になってしまうだろう。

しかし別働隊には四天王の一人である崩墟が居た。

崩墟が大地の魔法で降り掛かって来る岩を全て砂へと砕く。

別働隊の者達は砂塗れにはなったが、死者はおろか一人の怪我人すら出さずに済んだ。

そして燿炎が崖の上に向かって声を張り上げる。

「崙土だろう!隠れていないで出て来いよ!」

すると崖の上に数人の人影が姿を現した。

燿炎はすぐさま崩墟に指示を出す。

「崩墟。頼んだ!」

崩墟は大地の魔法で人影がある部分の崖を切り崩して、敵を氷河へ叩き落とそうとした。

そして露衣土軍であろう人影達は切り崩された崖に乗ったまま、氷河に激突する寸前に切り崩された崖を砂へと砕き、衝撃を和らげて着地しようとする。

しかし、それまで氷河であったはずの、その場所が氷から水に溶かされていた。

凍浬が魔法で氷河の氷を溶かしたのだ。

敵であろう人影達は皆、そのまま砕かれた砂、諸とも水の中へと沈み込む。

そして一人の男が水の中から頭を出す。

その瞬間に水は再び氷河へと戻った。

凍浬が魔法で凍らせたのである。

頭を出した男は燿炎にとって、顔見知りの崙土であった。

崙土の部下達は全て氷河の中で氷漬けになった様だ。

そして燿炎が徐に頭だけになった崙土に話し掛ける。

「久しぶりだな。崙土」

「た、助けてくれ」

崙土は必死に助けを請うた。

燿炎が崙土の顔を覗き込む様にして言う。

「心配するな。久しぶりの再会なんだ。少し話をしようぜ」

「話って何を話するんだ?」

崙土は顔を引き攣らせながら言った。

皮肉を込めて、燿炎が崙土に声を掛ける。

「お前は今、司令官をしているんだってな」

「それが、どうかしたのか?」

崙土は皮肉を言われても、惚ける外はなかった。

更に皮肉を続ける、燿炎。

「随分と出世したもんだな」

崙土はどう返答したらいいのか判らずに言葉が出て来ない。

それを見て燿炎が言葉を続ける。

「露衣土はやり方に問題はあれども、己の信念に基づいて戦っている。しかしお前はどうだ!?」

「どうだ!?とは、どういう事なんだ?」

崙土は燿炎の言う事を測りかねて訊き返した。

今度は白地な嫌悪感を顕にして、燿炎が言う。

「お前は己の立身出世の為に多くの人々を踏み潰して来たよな」

「そ、それは誤解だ」

動揺を隠せずに吃ってしまった、崙土。

今度は燿炎が崙土に訊き返す。

「どう誤解なんだ!?」

「俺は露衣土様のお考えに心を打たれて、露衣土様の為に、と」

崙土がそこまで言った時、燿炎が話を断ち切る。

「まあ、いい」

「お、俺を殺すのか?」

崙土が声を震わせながら燿炎に訊いた。

再び崙土に訊き返す、燿炎。

「殺して欲しいのか?」

「いや、助けてくれ」

崙土は必死になって燿炎に助けを請うた。

「昔のよしみだ。すぐに殺しはしないさ。凍浬、頼む」

燿炎は崙土にそう応えながら、凍浬にも声を掛けた。

崙土は凍浬の魔法で残った頭も凍らされて生きたまま氷河の一部となった。
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by gushax2 | 2016-06-19 05:37 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参拾/定まった標的

燿炎達、露衣土討伐軍は本隊を洲の国で展開した。

そして、それとは別に少数精鋭の別働隊を組んで、こちらの澪の谷を進み、露衣土城のみを攻略するべく、露衣土城へと向かっている。

一方、露衣土軍の本隊は洲の国との国境を挟んで、湘の国で部隊を展開し、討伐軍本隊と睨み合いを続けていた。

─────

少し話を戻して、三日前の討伐軍による作戦会議での事である。

燿炎が本隊を洲の国で展開したまま少数の別働隊で、露衣土城のみを攻め落とす作戦を提案した。

幹部達の多くは、その様な燿炎の提案に対して、戸惑いを隠せないでいる。

「少数部隊だけで露衣土城を攻め落とせるのだろうか」

「いや、その前に露衣土城に辿り着く事さえ難しいだろう」

「果たして今の状況でわざわざ、その様なリスクを冒さなければならないのだろうか」

「別働隊などは組まずに戦力を集中して進軍していった方が、確実に露衣土城を攻め落とす事が出来るのではなかろうか」

この様な否定的な意見が会議場を飛び交っていた。

そんな中で凍浬が燿炎に声を掛ける。

「やっと本気になったんだな」

そして燿炎は会議場に居た幹部達に力強く語り掛ける。

「澪の谷を通って行けば露衣土城に辿り着く事はそう難しい事ではない。しかし少数部隊で露衣土城を攻め落とす事はそう容易くもない。それでも我々はそれを、やり遂げねばならない。何としても、だ」

そして戸惑う幹部達に、これまで見せた事のない程の強い決意を込めた表情を見せた。

そんな燿炎の表情を見て、それまで戸惑っていた幹部達も氷の大陸出身で地理を熟知している燿炎の提案に納得して、また、それまで抱いていた不安も払拭され、全会一致で燿炎の提案した作戦を決行する事になったのである。

─────

その様な経緯を経て、少数精鋭の別働隊で露衣土城を急襲する事にした討伐軍であった。

その別働隊にはリーダーである燿炎を含めて、麗羅、凍浬、崩墟の四天王が揃って組み込まれている。

本隊の方は露衣土軍と睨み合いをするだけだからだ。

戦況から考えて、露衣土軍の方から攻めて来る事は先ず、有り得なかった。

万が一に露衣土軍の方から攻めて来られたとしても、討伐軍が数の力で負ける事は考え難い。

寧ろ、そうして貰った方が討伐軍の思う壺であった。

悪戯に戦場を拡大せずに露衣土軍の戦力を削る事が出来る。

そう考えると露衣土軍の方から動いてくる事は有り得ないのだ。

今や、形勢は圧倒的に討伐軍の方に傾いているのである。

だから別働隊を組まずに本隊のまま進軍して行って、露衣土城を攻め落とす事も選択肢の一つではあった。

寧ろ露衣土城を攻め落とすには、そちらの方が確実であったと思われる。

しかし、それでは露衣土帝国がやってきた事となんら変わりがなくなってしまう。

そして双方の軍、更に民間人も含めて、悪戯に犠牲者を増やすだけなのだ。

それを避ける為に少数精鋭の別働隊を組んで、露衣土城のみを攻め落とそうとしていた。

そして燿炎達、別働隊の一行はこの澪の谷を露衣土城へと向かって進んでいる。

澪の谷の底には氷河が流れていた。

討伐軍はその氷河の上を進んでいる。

両脇は切り立った崖である。

この様な所で大部隊を展開する事は出来ない。

別働隊も縦長になって進軍するだけである。

もし此処で露衣土軍が仕掛けて来るのであれば、崖の上からの攻撃しか考えられなかった。
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by gushax2 | 2016-06-18 06:40 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾玖/功を焦る司令官

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

露衣土はいつもの様に自室に篭って、窓から外を眺めている。

燿炎達、反乱軍が大地の大陸に新たな国家を建ててからというもの、露衣土の下に届いてくる知らせは良くないものばかりになっていた。

それもあってか、最近は特に炮炎の事を思い出してしまう。

炮炎とは、いつも意見が合わなかった。

それでも、いつも一緒に居たのである。

今、思えば、あの頃が一番、楽しかった。

炮炎はどの様な時でも、決して理想を投げ出したりはしない、熱い男だ。

本当に自分とは正反対の男であった。

そして、だからこそ、の自分である。

炮炎の言う事は十分に理解が出来た。

しかし理解が出来てしまうからこそ、受け入れる事が出来なくなる。

眼下で繰り広げられる、理不尽さと不条理さに塗れた日常。

そんな日常の中で炮炎の言う理想は余りにも遠く感じて、それならば、と考える事が自分の原点であった様に感じる。

炮炎の言う理想とは違った世界を皆に見せる事こそが、自分の存在価値の様に思ったりもした。

そして、それは今も変わらない。

そんな風に思い巡らすと自分が滑稽にも思えてくる。

しかし、もう、炮炎はこの世にはいない。

露衣土自らが炮炎を葬ったのだ。

その代わりに燿炎が露衣土の前に立ちはだかる事になった。

面白い。

本当に面白い。

この世界の機敏というものに、いい知れ様のない面白さを感じずにはいられなかった。

そして露衣土の部屋に一人の男が入って来る。

「失礼、致します」

男が露衣土に向かって言った。

露衣土は男の方に振り返って、男の姿を確認する。

聞こえてきた声がいつもの報告係の男ではなかったからだ。

露衣土の部屋へ入って来た男は司令官である崙土と云う男であった。

「何用だ?崙土。司令官である、お前が此処に来るとは」

露衣土は崙土に嫌味ったらしく言った。

恐縮しながらも、すぐに一応の報告をする、崙土。

「燿炎達、反乱軍の一部が澪の谷へ迂回して、直接、こちらに向かっている様ですが」

「判っておる」

露衣土は淡々とそれだけを応えた。

崙土が露衣土の顔色を伺うかの様に訊く。

「如何、致しましょうか?」

「放っておけばいい」

素っ気なく露衣土は応えた。

露衣土の真意を測りかねて訊き返す、崙土。

「と、申しますと!?」

「此処へ来るというのであれば、迎えてやればいいという事だ」

露衣土は淡々とそう応えた。

再度、確認をする、崙土。

「宜しいのですか?」

「構わん。燿炎には私が直接に手を下せばいい」

露衣土はキッパリと言い切った。

今度は崙土が露衣土を気遣うかの様に言う。

「しかし露衣土様の手を煩わせる事もありますまい」

露衣土は厳しい表情で黙していた。

続けて今度は自らを売り込む様に崙土が言う。

「私が澪の谷へ出向いて、燿炎達を片付けて来ましょう」

「好きにしろ」

露衣土は相変わらずに淡々としたままだった。

そして崙土は露衣土の部屋を後にする。

「では、早速に」

再び自室で一人になった露衣土は窓から外を眺めて、厳しい表情で独り呟く。

「馬鹿め。何もそう死に急ぐ事もないだろうに。今の燿炎を倒せるとすれば私しかおらん。私が燿炎を倒す。或いは私が倒されるか、だ」
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by gushax2 | 2016-06-17 05:44 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾捌/再び動きだそうとする世界

ひょんな事から燿炎の迷いは晴れていた。

露衣土を倒したところで平和になるとは限らない。

しかし露衣土を倒さない限り、平和への希望が絶たれてしまいかねない。

だから平和への希望を絶やさない為にも、露衣土だけは倒さなければならない。

そして露衣土を倒した後、平和になるかどうかは、この世界全体の問題である。

討伐軍と云う一勢力、ましてや燿炎と云う一個人でどうにか出来るものではない。

更に言えば、自分で何とかしようなどと思う事は単なる思い上がりにしか過ぎなかった。

それは、ある意味、周囲に対する信頼の無さとも言える訳で、そんな事で皆を平和へと導く事なんて出来るはずもないだろう。

もっと皆を信頼しなければならない。

露衣土はそれが出来ていない様に思った。

だから先ずは皆を信頼する。

そして、そんな皆と一緒に試行錯誤して、皆で一緒に平和へと向かっていくべきなのだろう。

その機会を守る為の戦いであったのだ。

その機会を守る為に露衣土だけは倒さなければならない。

そして平和の為にと戦っている限りは露衣土と同様な事をする事になるだろう。

自分もまた倒されるべき対象にも、なってしまいかねないのだ。

それでは何も変わらない。

露衣土と自分が入れ替わるだけの事である。

これまで露衣土がやってきた事をこれから自分達が繰り返すだけなのだ。

危うく露衣土の二の舞を演じるところであった。

燿炎は己の愚かさを思い知る。

そして麗羅を呼ぶ、燿炎。

「麗羅」

「何?」

麗羅が応えた。

燿炎が麗羅に礼を言う。

「ありがとう」

「急に変な事を言わないでよ」

麗羅は何で礼を言われるのか解らずに戸惑いながら言った。

そんな麗羅の戸惑いを余所にして、燿炎は麗羅に頼む。

「皆を集めてくれないか」

「解ったわ」

麗羅はそう言うと、その場を離れた。

一人残った燿炎は再び考え込む。

燿炎は炮炎の言葉を思い出した。

『皆で何が【正義】なのかを模索していく。その過程こそが、本来、この世界のあるべき姿なのではないか』

この時は【正義】について炮炎は述べた。

しかし燿炎はこの【正義】の部分を【平和】に置き換えても同様に言える様に思った。

【平和】も、また、どうすれば【平和】になるのかを皆で考えて、一緒に試行錯誤をしていく。

その様な覚悟の様なものが大切なのかもしれない。

そして、その覚悟の様なものは試行錯誤と云う過程の中で育まれる。

そんな一朝一夕に出来る事ではないのだろう。

試行錯誤と云う過程を経なければ、そこに辿り着く事は出来ないのかもしれない。

それが炮炎の言っていた『本来、この世界のあるべき姿』なのではなかろうか。

そして燿炎は改めて思った。

自分はそんな世界がとても愛おしい。

何としてでも、そんな世界を守りたいと思う。

皆と一緒に、もっと、もっと、試行錯誤をしていきたい。

そして燿炎は露衣土城の方角を見上げながら呟く。

「露衣土よ、待っていろよ。お前は俺が倒す」

燿炎の表情には固い決意が込められている様である。

そして燿炎は皆が集まる会議場へと歩を進めて行った。
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by gushax2 | 2016-06-16 06:21 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾漆/絶え間無い葛藤の中で

露衣土討伐軍が足止めを喰らう中で燿炎は一人、苦しんでいた。

反乱軍に加わったりせずに露衣土の下で戦っていれば、今頃はすでに平和を手にする事も出来たのかもしれない。

いや、それは違う。

露衣土の下で戦っていたら、この星を滅ぼすまで戦いを終える事は出来ないのではないだろうか。

しかし反乱軍に加わって、その反乱軍は今、討伐軍にもなってはいるが、この現状にしても同様の結末へと向かっている様にしか思えない。

一体、何が【正義】なのだろう。

露衣土も自分もどちらも【正義】だとは思えない。

燿炎がまだ若かりし頃に炮炎や露衣土と【正義】について語り合った事もある。

露衣土は言っていた。

『【正義】は誰かが決めるものではない。改善をしていく、その行動に【正義】がついてくる』

炮炎は言っていた。

『皆で何が【正義】なのかを模索していく。その過程こそが、本来、この世界のあるべき姿なのではないか』

若かりし頃の燿炎はどちらかと言うと、露衣土の言う事の方が理解が出来ていた。

理不尽や不条理が罷り通る現実の中で、多少、強引にでも改善を促す必要もあるように思っていたからだ。

しかし、それを信じて戦いを続けている内に、目の前で理不尽や不条理が次々と生じてくる。

理不尽や不条理を無くしていく為に戦ってきたのに、戦う事で理不尽や不条理を生み出してもしまう。

そんな中で【正義】に対する疑問が強まってきて、今は炮炎の言っていた事の方が、なんとなくだが理解が出来る様に思っていた。

そして燿炎は更に思う。

【平和】とは、一体、何なんだろう。

【平和】を求めれば求める程、人は争わなければならないのだろうか。

自分は【何】がしたいのだろうか。

自分は【何】を求めているのだろうか。

自分は【何】をすべきなのだろうか。

自分は【何】なんだろうか。

「何をしているの?」

突然に麗羅が声を掛けて来た。

燿炎は素っ気なく応える。

「別に何もしてないさ」

「また炮炎の事でも考えていたんでしょう」

麗羅は炮炎の事を持ち出した。

いつもの事である。

「うるせーよ」

燿炎は悪態をついたが否定も肯定もしない。

こちらも、いつも通りだった。

「平和って一体、何なんでしょうね」

燿炎が考えていた事と同じ事を麗羅が呟く様に言った。

燿炎は何も言えずにいる。

そして麗羅が続けて言う。

「いつも炮炎が言っていたわ」

「なんて言っていたんだ?」

燿炎が麗羅の言葉に食いついた。

話を続ける、麗羅。

「平和なんてものは己の内にのみ存在するもので、それを周囲に求めてはいけないってね」

確かに、そうなのかもしれない。

しかし今の燿炎の内に平和の存在は感じられなかった。

そして過去を振り返ってみても、平和を感じた覚えは一度も無い。

覚えていないくらい子供の頃には平和であったのかもしれないが、それでも世界の何処かで、子供には知り得る事の無い紛争が起こってはいたのであろう。

果たして、この世界に平和なんてものは存在するのだろうか。

燿炎がそんな風に想いを巡らせた、ちょうど、その時に麗羅が話掛けてくる。

「炮炎と一緒だった時は平和だったわ」

「どう?平和だったんだ?」

燿炎が麗羅に訊いた。

麗羅が先程の自らの言葉を否定する。

「でも、平和じゃなかったの」

燿炎の質問に対する回答としては不適切に感じたので、燿炎は黙って麗羅の次の言葉を待つ。

そして麗羅が話を続ける。

「だから戦う事を決めたのよ」

結局、燿炎の質問に対する納得のいく回答は得られなかった。

しかし戦う事の意味については、なんとなくだが解る様な気がする。

再び麗羅が続けて言う。

「露衣土は己の平和を全ての人々に押し付けようとしているの」

燿炎は何も言わずに、ただ、麗羅の話を聞いている。

話を続ける、麗羅。

「だから露衣土だけは倒さなければならないのよ」

確かに麗羅の言う通りだと思う。

そして燿炎は自分が平和を求め過ぎていた事に気付いた。

反乱軍のリーダーとなって、その責任感もあっての事だろう。

自分達が平和にしなければならない、と。

今までは平和の為にと戦っていたのだ。

しかし、この戦いは、その様なものではなかった、と気付く。

平和への希望を繋ぐ為の戦いであったのだ。
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by gushax2 | 2016-06-15 06:36 | 弐章/英雄