カテゴリ:弐章/英雄( 36 )

弐章/英雄/挿話弐拾陸/立ちはだかる二つの壁

燿炎達、反乱軍が大地の大陸を復活させて、塑の国を建ててから十二年が過ぎようとしていた。

その間に反乱軍は各地の抵抗勢力を吸収しながら、風の大陸、そして炎の大陸を露衣土帝国の支配から解放して、更に氷の大陸の約五分の一程の領域まで攻め込んでいる。

この時点ですでに立場が逆転して、反乱軍は露衣土討伐軍とでも言うべき存在になっていた。

しかし此処へ来て、中々、先へとは進めなくなってもきている。

それというのも、風の大陸、炎の大陸と、露衣土帝国の支配から解放する事は出来たのだが、解放したらしたで、今度は幾つかの地域で秩序を保てなくなってしまったのだ。

特に独立指向の強い風の大陸では、それが燿炎達、討伐軍の足枷にもなっていた。

炎の大陸の方は解放する際に苦労した分だけ、今のところは風の大陸程、問題にはなっていない。

それでも風の大陸程ではないと云うだけだ、問題が全く無い訳ではなかった。

とにもかくにも、人間とは本当に身勝手な生き物で、露衣土帝国に支配されている間は露衣土を恐れてか、余り派手に暴れる者はいなかったのだが、反乱軍によって露衣土帝国の支配から解放された途端に、次々と勝手に暴れ回る者達が出て来てしまったのだ。

勿論、次々と言っても全体から考えれば、一部の者達にしか過ぎない。

しかし、その一部の者達を放っておく事で、何の罪もない民衆を犠牲にしてしまうのであれば、平和の為にと戦っている反乱軍、いや、討伐軍の存在意義を問われかねないのである。

結局、統治者が誰であれ、秩序は守らなければならない。

討伐軍はその為に各地へ兵を送らなければならず、戦力を一本化出来ないでいる。

更にもう一つ大きな問題を抱えていた。

これまで風の大陸、炎の大陸では、露衣土の圧政に対する反発も強くて、民衆の多くは露衣土帝国の支配から解放される事を望み、その望みを反乱軍に託す様な形だったので、大概の場合において反乱軍は民衆に歓迎されて、民衆は反乱軍に協力的でもあった。

しかし氷の大陸まで来ると、さすがに、これまで通りとは、いかなくなってもきている。

それと言うのも当然に氷の大陸の民衆にとっては、露衣土帝国が自分達の誇りにもなっているからであった。

世の情勢が逆転したとは言え、氷の大陸の民衆にとって討伐軍は未だ反乱軍であって、侵略者として見ているのだ。

そんな中で力ずくで進軍でもしようものなら、それは露衣土帝国がやってきた事となんら変わりがなくなってしまう。

そうかと言って、露衣土をこのまま放っておいて、露衣土が黙っている訳でもない。

恐らくは再び露衣土帝国の戦力を蓄えさせてしまう事にもなるであろう。

そして、また、情勢が逆転する事も無い話ではないのである。

結局、戦争が終わる事無く、より多くの民衆が犠牲になる事にもなってしまうのだ。

強引に進軍する訳にもいかず、露衣土の討伐を止める訳にもいかず、燿炎達は此処へきて、足踏みせざるを得なくなっていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-14 05:41 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾伍/解放戦線

塑を建国してから、約二年。

燿炎達、反乱軍は着々と力を蓄えてきた。

国を整えて兵を鍛え計を練って、いよいよ行動に移すべき時を迎える。

反乱軍の志気は益々盛んになってきて、士気の方も最高潮に達している様に思われた。

そして精霊の星を露衣土帝国の支配から解放するべく、炎の大陸、そして風の大陸へと、それぞれに部隊を進めて行く事となる。

その為に反乱軍は部隊を二手に分けて、解放戦線を展開していかなければならなくなった。

燿炎と麗羅で炎の大陸を、凍浬と崩墟で風の大陸を、それぞれ解放するべく、それぞれ配下の兵士も二分する。

以前の反乱軍であったら部隊を分割する事は出来なかったであろう。

無理矢理に分割しても戦力を激減させてしまうだけである。

しかし今は配下の兵士も育ってきて、それぞれに四天王を支援する形で、露衣土帝国軍に対抗が出来るだけの戦力を維持する事も出来る様になっていた。

そして塑の国の守備と統治は適性のある者達に任せ、リーダーである燿炎は自ら麗羅と共に配下の兵士を引き連れて炎の大陸へと向かう。

一方、凍浬と崩墟も配下の兵士を引き連れて風の大陸へと向かった。

五年もすると、凍浬達に拠って、風の大陸の露衣土帝国からの解放は達成される。

元々、排他的な風習が強く残る風の大陸では、露衣土帝国の支配に対する反発も強かった。

そのような風土が後々、反乱軍にとっての足枷になってもくるのだが、現状において、風の大陸の民衆の大半は露衣土帝国の支配からの解放を望んでいたのだ。

だから風の大陸で反乱軍は民衆に好意的に受け入れられて、容易に協力も得られた。

そして反乱軍は風の大陸で順調に露衣土帝国からの解放を進めていく事が出来たのである。

一方、その頃、炎の大陸で燿炎達は思う様に兵を進める事が出来ずにいた。

未だ炎の大陸の半分に満たない程度しか露衣土帝国からの解放は為されていなかったのだ。

勿論、大陸の面積が風の大陸と比べて倍程の大きさがあるので、仕方がない面もある。

しかし、それ以上に炎の大陸の風土というものが結構、厄介だったりもした。

炎の大陸は元々、纏まりに欠いた風土があったので、露衣土帝国の支配下になってからも、あちこちに露衣土帝国に対する反抗勢力が散在していたのである。

そして、その反抗勢力は必ずしも反乱軍に協力的であるとは限らなかったのだ。

時には反乱軍に対しても敵対するような勢力が存在したのである。

そんな中で粘り強く、理解と協力を得ながら、露衣土帝国からの解放を進めなければならなかった。

そして凍浬が風の大陸の露衣土帝国からの解放を終えて燿炎達に合流する。

崩墟は配下の兵士達と風の大陸に残って守備を固めていた。

反乱軍は凍浬が加わった事で、露衣土軍との戦闘に因る負担が随分と軽減される。

それにより炎の大陸の露衣土帝国からの解放も速度を早める事が出来た。

そして、それから三年程経って、反乱軍による炎の大陸の露衣土帝国からの解放が為される事になる。

残りは露衣土帝国の本拠地であり、燿炎や炮炎の故郷でもある、氷の大陸を残すだけになっていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-13 06:59 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾肆/返り討ち

大地の大陸に塑の国を建てた、反乱軍。

建国から一年半程、過ぎている。

その間、国力の安定に力を注いできたが、今度は少しずつ露衣土帝国に対向する為の戦力を整える必要も出てきていた。

未だに炎の大陸と風の大陸から、人々の流入は続いている。

大地の大陸には広大な土地があったので、逃れて来た人々を受け入れる事は可能ではあった。

しかし、それだけ炎の大陸と風の大陸が混乱を極めているという事でもあって、出来るだけ早く、その様な状況を静める必要もある様に思われる。

そして逃れて来た人々の中から一部、戦闘に適性の高い者達を反乱軍の戦力として訓練もし始めていた。

そんなある日、露衣土軍の討伐隊がやって来る。

燿炎は麗羅と凍浬、そして数十人の兵士を引き連れて迎え撃つ。

崩墟や大地の精霊の守護を受けた兵士は大地の魔法が効かない大地の大陸では、戦力にならないので留守番をするしかなかった。

やって来た露衣土軍の方は三十人程であろうか。

人数はそれ程の差がある訳では無かった。

燿炎達、反乱軍の方が幾らか多いくらいであろう。

露衣土軍を率いていたのは岩堝と云う男であった。

以前に炎の大陸で燿炎達、反乱軍を地割れの魔法で一網打尽にした男だ。

その岩堝が燿炎に向かって声を荒げる。

「裏切り者、燿炎よ!よくも、この俺を謀ってくれたものよ!おかげで俺はとんでもない恥をかかされてしまったぜ!」

「謀った!?俺はお前を謀った覚えなんてない。変な言い掛かりは止めて貰いたいね」

燿炎は岩堝が何を言っているのか、理解が出来ずにいた。

岩堝が再び燿炎に向かって声を荒げる。

「惚けるんじゃねぇよ!俺に敗れたフリをして此処まで逃げて来たくせに!」

「なるほどね。しかし、それは誤解だ。あの時は別にフリをした訳じゃない。本当に危機一髪だった。その危機を回避出来たのは我々に理があるからだと俺は思っているが、お前はどう思う!?」

声を荒げる岩堝とは対照的に燿炎は至って冷静に岩堝へ向かって問うた。

そんな燿炎に攣られる様に先程よりは声を抑えて話をしてくる、岩堝。

「何が理だよ。幾ら生意気を言っても俺に恥をかかしてくれた罪が消える訳ではない」

「そっちが、そう来るのなら、こちらも言わせて貰う。お前の所為で俺達は何人かの仲間を失った。本来なら許す事は出来ないが、無駄な争いを避ける為にお前達の方から降参するというのであれば、勘弁してやらない事もない」

燿炎は岩堝に対して投降を要求した。

それを聞いた岩堝が再び声を荒げて語る。

「何が勘弁だ!勘弁するしないは、こちらの方だ!この際、俺に対する非礼は勘弁してやろう。しかし露衣土様に対する非礼だけは勘弁ならん!露衣土様に反旗を翻すどころか、露衣土様の許しも無く大地の大陸を復活させ、あまつさえ新たな国家を建てるという傍若無人な振る舞い。この俺が露衣土様に代わって成敗してくれようぞ!」

「何が露衣土、〔様〕だ。露衣土の事はよく知ってるが、〔様〕なんか、つける程の奴じゃねーよ!それよりも時節を誤ると、無駄に命を落とす事になるだけだぜ。おとなしく俺達の軍門に下った方がお前達の身の為だ」

燿炎は再び岩堝達に投降を促した。

「裏切り者の分際で何をほざく!俺は逆賊に懐柔される程、落ちぶれてはおらん!何が時節だ。未だ露衣土様の天下である事は何も変わってはおらん。お前の方こそ分を弁えるがいい!己の愚行を思い知れ!」

そう叫びながら岩堝は魔法を使う。

しかし何も起こらなかった。

岩堝は何度も地割れの魔法を使うが、一向に何も起こらない。

露衣土軍は岩堝の魔法を切っ掛けに総攻撃をする予定だったが、岩堝の魔法が効かないので、どうしたらいいのか判らずに戸惑うだけであった。

その様子を目の当たりにして、燿炎が特大の炎を作り出す。

そして続け様に叫ぶ。

「後は皆に任せたぜ!」

麗羅が風の魔法で燿炎の作り出した炎を拡げて、露衣土軍に浴びせ掛ける。

岩堝を含めた半数以上が炎に呑まれて燃え尽きた。

残りを凍浬や他の兵士がそれぞれの魔法で片付ける。

あっという間に露衣土軍は全滅した。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-12 04:27 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾参/向きが替わった風

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

燿炎達、反乱軍掃討の報告後、露衣土は各地に残存する抵抗勢力への威力制圧に、更なる力を注いでいた。

毎日、毎日、報告を受けて、必要があれば自ら直接の指示も出す。

しかし八ヶ月を経た現在も未だ、精霊の星、全体を制圧するまでには至っていない。

それどころか力で捩じ伏せようとすればする程に、抵抗勢力が後から後から湧き出て来る様に感じている。

決して敗戦の報に触れる訳ではないが、いつまで経っても抵抗勢力が居なくならなかった。

まるで土竜叩きの様である。

こっちを叩けば、あっちに、あっちを叩けば、こっちに。

とにもかくにもキリがなかった。

そんな折りに驚くべき報告が舞い込んでくる。

『大地の大陸が復活』

この報告が本当であれば、大変に驚くべき事だが、俄には信じ難い事ではある。

だから露衣土はまともには受け取らなかった。

しかし次に齎された報告が問題だったのである。

数ヶ月後、更に驚くべき報告が舞い込んで来たのだ。

『燿炎達、反乱軍が大地の大陸に新たな国家を建てた』

こちらの報告は露衣土からすると、驚くというよりも呆れる外はなかった。

部下の報告に拠れば、以前に燿炎達は死んだはずなのである。

その死んだはずの燿炎達が大地の大陸を復活させて、大地の大陸に新たな国家を建てたのだ。

はっきり言って、部下の怠慢以外の何物でもなかった。

しかし今更、部下をそんな事で責めても、どうにもなるもんでもない。

寧ろ部下の報告を鵜呑みにした自分自身が腹立たしいくらいであった。

いずれにしても、こうなると、もう、噂などというレベルの話ではなくなってくる。

後からの報告が前の報告の裏付けにもなってくる訳で、信じ難いなどと言っている場合ではないのだ。

現実のものとして考えなければならなくなってくる。

抵抗勢力の勢いが衰えない原因も、恐らくは【此処】にあるのだろう。

実際に大地の大陸に出来た新たな国家の存在が、炎の大陸と風の大陸に展開していた抵抗勢力に勇気と安心を与えていた。

例えその時の戦闘に敗れても、大地の大陸に逃げ込む事が出来たからである。

更には炎の大陸と風の大陸では、民衆が次々と抵抗勢力になったりもしていた。

その様な事が延々と繰り返されていたのだ。

露衣土は思った。

風はもう自分には吹いていない、と。

しかし不思議と悔しさは無かった。

寧ろ燿炎が生きていた事が嬉しく感じたりもする。

若かりし頃に語り合った、短くも濃厚な時間。

あの頃の続きを、まだ続ける事が出来る。

当時、語り合った相手は主に炮炎であった。

そして今、更にこれから戦わなければならない相手は燿炎に替わっている。

若かりし頃の燿炎は露衣土に追従していた。

そして共に幾多の戦いを潜り抜けて来たのである。

その燿炎と戦わなければならなくなった。

それでも此処まで来た以上は、今更、後に引く訳にもいかない。

「燿炎よ。見事、私を倒してみせよ」

露衣土は覚悟を決めたかの様に一人呟いた。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-11 06:05 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾弐/反撃の狼煙

燿炎達、反乱軍が大地の大陸を復活させると、その知らせは炎の大陸、風の大陸へと、すぐに広まっていく。

氷の大陸に達して露衣土の耳に届くのも時間の問題であろう。

一ヶ月もすると、炎の大陸や風の大陸から多くの人々が流入して来る様になる。

露衣土軍に敗れた抵抗勢力の残党や戦火の中で住まいを追われた者達。

炎の大陸や風の大陸では未だ露衣土軍に因る、抵抗勢力への威力制圧が続いていたからだ。

更には露衣土帝国の圧政に耐え切れずに逃げ出して来た者達。

日に日に大地の大陸へと逃げ出して来る人々が増えていった。

反乱軍はそれら全てを受け入れて力を蓄えていく。

この時点ですでに反乱軍という一勢力ではなく、一つの国家と為り得ていた。

国家としては、まだまだであったが、規模としては、すでに一勢力として片付ける事は出来なくなっていたのである。

そして燿炎、麗羅、凍浬、崩墟等、反乱軍の主力達も今は国を整える事に専念するしかなかった。

毎日、毎日、やらなければならない事が山積みだったのである。

それというのも大地の大陸では何故か大地の魔法が使えなかったからだ。

大地の精霊の守護を受けた者が大地の魔法を使っても何も起こらない。

崩墟でさえも、どうにも出来なかった。

土木工事の全てを人の手に頼らなければならなくなったのだ。

住居の建築、道路の整備、植樹や農耕等々。

更には人が増えてきた事に拠って、法の整備や国民への役割分担等も決めなければならなくなる。

国家運営の全てを自分達でやらなければならなかった。

国民、一人一人の適性を見極めて、要所要所に配置する。

土木工事に従事する者、生産活動をする者、役人としての仕事を任せる者、その他、人間の生活に必要な仕事を任せる者、それぞれ割り振らなければならなかった。

燿炎達、反乱軍の幹部達は日々、それらの事で頭を悩ませる事にもなったのである。

しかし、その様な事が国民とっては幸いだったのかもしれなかった。

国民、一人一人がそれぞれ自らに与えられた役割を果たしていく事で、自分達の国を豊かにする事に繋がる。

大地の大陸にやって来た者達は皆、夢と希望に満ち溢れていた。

国民は自分達へ与えられた仕事にやり甲斐と誇りを感じて、充実した日々を送る。

そんな国民に支えられて順調に国が整備されていく。

更に国が整備されていく事で、最初は大変だった幹部達の負担も日に日に減っていった。

その結果、大地の大陸が復活してから半年、燿炎をリーダーとした、塑という名の国を建てる事になる。

そして数万人に膨らんだ国民の前で燿炎が高らかに叫ぶ。

「この世界の未来の為、露衣土帝国の横暴を赦す訳にはいかない。我々がこの地を得る事が出来たのは、正に我々に露衣土帝国の横暴を止める役割があるからである。そこで俺から皆に頼みたい事がある。俺に協力して欲しい。俺を信じてくれ。そして俺から皆に命令する。俺を信じて、ついて来い!必ずや露衣土帝国を倒してみせよう!」

燿炎は多くの民衆から喝采を浴びている。

そして、この事が露衣土帝国に対する、反乱軍の反撃の狼煙ともなった。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-10 05:50 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾壱/蘇る大地の大陸

炎の大陸の南端にある岬。

燿炎達、反乱軍は万象から得た情報を元に、此処から、それぞれが担当すべき島へと向かう。

崩墟が大地の魔法で海底を海面上に隆起させて道を作り、数人の者を従えて、遥か南西にあるらしい南の小島へ向かった。

凍浬が氷の魔法で海面を凍らせて道を作り、数人の者を従えて、西の方にあるらしい北の小島へ向かう。

麗羅は護衛を一人だけ伴って、風の魔法を使い、北の小島よりも更に西にあるらしい西の小島へ向かって飛び去った。

燿炎は残った者達と共に舟に乗って、一番近くで、すぐ南の見える距離にある東の小島へ向かう。

西の小島に到着した麗羅は燿炎、凍浬、崩墟がそれぞれの島へ到着するのを待つ。

西の小島が距離は一番、遠かったが、風の魔法で飛んで行った麗羅が逸早く到着していた。

そして麗羅がテレパシーで他の者達の状況を確認する。

燿炎、凍浬、崩墟がそれぞれの島に到着して準備を整えていく。

先に準備を終えていた麗羅が再びテレパシーで他の者達の準備が済んでいる事を確認する。

確認を終えると、麗羅はタイミングを合わせる為に合図した。

そして燿炎、麗羅、凍浬、崩墟の四人は同時にそれぞれの魔法を使う。

大地の大陸を海底から海上へと隆起させようとした。

万象の話に拠ると、この魔法を最低でも半日程は続けなければならないらしい。
四人は集中して魔法を唱えている。

いや、唱えていると言うよりは念じていた。

そして、そのまま半日が過ぎる。

まだ何も変化は見られなかった。

それから幾らかの時が過ぎてから、少しづつ海面に陸地が現れてくる。

それでも四人はまだ魔法を念じていた。

そして、また幾らかの時が過ぎて、やっと陸地の隆起が止まる。

四方の小島は大陸と陸続きになって、それぞれ大陸の東端、北端、西端、南端になっていた。

周囲の者達がそれぞれに燿炎、麗羅、凍浬、崩墟へ陸地の隆起が止まった事を告げる。

四人は状況を告げられた者から順にその場に崩れ落ちた。

半日以上も集中して魔法を使い続けたのだから、それも当然であろう。

四人は気絶していた。

それぞれ部下の者達が介抱をしたが、一向に目を覚まさない。

しかし呼吸も脈拍もあったので、死んでいる訳ではない様だった。

部下達は仕方がないので四人をそれぞれ、その場に横たえて、それぞれ本人の回復を待つ。

そして暫くしてから、崩墟が最初に目を覚ました。

崩墟は状況を確認すると、麗羅に意識を送る。

何度目かに麗羅が目を覚ました。

目を覚ました麗羅が状況を確認する。

そして麗羅がテレパシーで燿炎と凍浬を起こそうとした。

先ず凍浬の方が目を覚ます。

最後に燿炎が目を覚ました。

麗羅は燿炎が目を覚ました事を確認すると、風の魔法を使って上空に飛び上がり、大地の大陸を見下ろす。

そして広大な大地の大陸の全容が明らかになる。

面積は炎の大陸や氷の大陸よりも、更に幾らか大きかった。

燿炎達は一度、大地の大陸の中心付近に集まってから、周囲を散策する。

所々に過去の文明のものと思われる痕跡が残されていた。

燿炎達には、どれくらい以前のものか、見当もつかない。

恐らくは万象であっても見当はつかないであろう。

伝説としてのみ、一部の人々の間で語り継がれてきたのだ。

その伝説の『大地の大陸』が今、現実のものとなった。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-09 06:21 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話弐拾/氷の皇帝の孤独な戦争

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

その露衣土城の中を一人の男が露衣土の部屋へと急いでいる。

前線からの報告の役目を持った男だ。

男は露衣土の部屋に入ると、清々しい表情で報告をし始める。

「岩堝隊が燿炎達、反乱軍を掃討したとの報告が入りました」

「そうか、」

露衣土は表情一つ変えずに、それだけを呟く様に応えた。

報告係の男は少し拍子抜けしたが、そのまま露衣土の部屋を後にする。

「では、失礼、致します」

再び一人になった露衣土は少し考え込んだ。

ふと、昔を懐かしく感じた。

そして血気盛んだった若かりし頃の事を思い出す。

─────

「この国はもう駄目だ。腐っていやがる」

露衣土が腹立たしそうに言った。

炮炎は露衣土とは対照的に冷静に話す。

「確かにな。しかし、だからと言って、我々まで腐ってしまっていいという訳ではないだろう」

「何、甘っちょろい事を言っているんだ。俺達は腐ってでも現状を打破する必要があるのではないのか!?」

露衣土が炮炎に食って掛かった。

そんな露衣土をいなす様に燿炎に意見を訊く、炮炎。

「燿炎。お前はどう思っているんだ!?」

「俺は炮炎の方が甘い様に思う。多くの民衆はそんなに世の中の事を構っていられる程、ゆとりがある訳では無い。多少、強引にでも改善していく必要があるのが、世の中なんじゃなかろうか」

燿炎は自身の意見をはっきりと炮炎に伝えた。

そんな燿炎の意見に対して、自らの疑問をぶつける、炮炎。

「例え俺達に正義があったとして、本当に俺達だけで決めてしまっていいのだろうか!?」

「誰が決めるかなんて関係ない。結果的に改善する事さえ出来れば、そこに正義がついてくるんじゃないのか!?」

今度は露衣土が炮炎の意見に対する、自らの疑問をぶつけた。

その露衣土の疑問に対して、炮炎は自らの意見を述べる。

「結果としての正義が大切なのではなく、皆で何が正義なのかを模索する、その過程が大切なのではなかろうか」

「そう悠長な事を言ってる間にも、我々の目の前では弱き者達が犠牲になっていってるんだぞ!?」

露衣土は再び炮炎の意見に対する、自らの疑問をぶつけた。

それでも尚、自らの主張を貫き続ける、炮炎。

「それでも、だ。力ずくの改善では、結局、それに因って弱き者達が犠牲にもなる」

「だったら、それこそ力ずくの改善でも変わりはないんじゃないのかな!?」

今度は燿炎が炮炎に素朴な疑問をぶつけた。

更に持論を繰り返す、炮炎。

「結果が変わらないからこそ、過程を大切にすべきだと言っている」

結局、この時の話し合いでは結論が出せずに、その後、炮炎が一人で二人の下を去って行く事になった。

─────

そして今は露衣土の方が一人ぼっちになっている。

露衣土にとっての戦争は今や、自分自身との戦いにもなっていた。

そんな露衣土がぼそぼそと独り言を始める。

「見てるか炮炎よ、そして燿炎よ。正義の旗は勝った者の下にのみ棚引くのだ。そして、その正義の旗の下にのみ、平和という魔物を呼び寄せる事が出来る。後少し、後少しで私が正義であった事を証明出来る。私に歯向かった事をあの世で悔いるがいい。そして私も行こう。平和という魔物を手懐けた後、お前達の悔しがる顔を私に見せておくれ。懐かしいな。昔はよく、お前達を悔しがらせたもんだ。正直、私は自分が憎い。平和が憎い。平和という魔物を手懐ける為にお前達を殺さねばならなかった事。だが、それも後少しで終わる。私は決して英雄になりたかった訳ではない。お前達と同様に、ただ、皆の幸福を望んでいるにしか過ぎない。だから全てが終わったら、また皆で語り明かそうぞ」

露衣土は一人、泣いていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-08 06:08 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾玖/地平を踏む巨人

崩墟。

風の大陸にあった凪の国で生まれたが、当時、風の大陸では凪の国も含めた全土で、大地の精霊の存在は信じられていなかった。

その事から崩墟は十歳になった時に、炎、氷、風、いずれの魔法も使えなかったという理由に因り、『悪魔の子』と決め付けられて、凪の国から追い出されてしまう。

その後、放浪を続けて各地を転々としながら、大地の精霊に導かれるように、炎の大陸にあった万象が暮らす小さな村に辿り着く。

崩墟は生まれついた時から、言葉を発する事が出来なかったのだが、万象と出会う事に拠って、大地の精霊の守護を受けた者同士での意思疎通を可能にする魔法を習得する事も出来た。

そして万象と共に万象の暮らす村に、そのまま住み続ける事になる。

この村の住人の七割程は大地の精霊の守護を受けた者達であり、崩墟と同様に各地で故郷を追われた者達でもあった。

だから崩墟も先の住人達に温かく迎え入れられた。

崩墟は万象の暮らす村に辿り着く事で、やっと孤独から解放されたのでもある。

そして崩墟は生まれて初めて、幸福らしきものを感ずる事も出来た。

しかし、その幸福らしきものは束の間のものである事を万象から聞かされる事になる。

崩墟は精霊の星に選ばれた者であって、いずれ大地の大陸を復活するべく、この村を旅立たねばならない運命である事を万象から聞かされた。

崩墟はその話を聞かされて、最初は訳が判らずに混乱もしたが、万象の話をよく聞いていく内に本当の幸福というものを探す為にも、自らの運命とやらに乗っかってみる気にもなっていったのである。

自分が何故、この世界に生を受けたのか。

万象の話に拠れば、崩墟自身にも万象と同じ様にこの精霊の星から与えられた特別な役割があると言う。

その特別な役割が大地の大陸を復活させると云う事だった。

そして、その役割を果たす事こそが、崩墟にとっての本当の幸福なのかもしれない。

崩墟はそう考えるだけで、自分自身に対する期待で胸が躍る様な感じがする。

万象と出会うまでは、自分がこの世界には必要のない存在にしか思えなかった。

しかし万象はその様な崩墟に対して、この世界に存在するものは全て、それぞれに与えられた役割があると云う事を説いたのである。

崩墟は万象と出会って、万象の話を信じる事に拠り、やっと自分自身で自分を肯定する事が出来る様にもなったのだ。

そうなる事で崩墟の中の世界が一変する。

そうなる事で崩墟から見える世界が一変した。

それまで自分自身を恨み、世界を憎む事しか出来なかった自分が、自分自身を、そして、この世界を愛おしく思える様になったのだ。

そして自分には、大地の大陸を復活させる役割がある、と万象は言う。

崩墟はそれが本当であるならば、自分にとっては大変に光栄な事であると共に、自らの全てを懸けるだけの価値がある様に思えたりもする。

そして崩墟は万象と共に燿炎達との出会いを待つ事となった。

後に崩墟は『地平を踏む巨人』とも称される事になる。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-07 05:51 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾捌/伝説の魔法使い

万象。

五百年程前に炎の大陸を統一した炎帝に仕えて、炎、氷、風の魔法を使いこなし、炎の大陸を統一する際に獅子奮迅の活躍をした、伝説の魔法使い。

実際には、炎、氷、風だけでなく、大地の魔法も使っていた。

しかし大地の魔法、そして大地の精霊に関しては、未だに、その存在すら信じられていない地域があったりもする。

更に万象は戦闘において、大地の魔法を使う事は殆ど無かった。

戦闘では炎、氷、風の魔法が使えれば十分に事足りていたし、万象が使う攻撃用の大地の魔法は周囲にも被害を及ぼすものであったからだ。

わざわざ大地の魔法を使う必要は無かった。

そして万象は戦闘での活躍が評価されて伝説となったのである。

その様な事から、五百年程前に万象が大地の魔法を使っている事に気付く者は誰一人として居なかった。

そして炎帝が炎の大陸を統一すると、その後、万象は炎帝の下を離れて、暫くの間、各地を転々とする事となる。

万象は自らが全ての精霊の守護を受けている事で、他の者達には出来ない、この精霊の星から自分だけに与えられた特別な使命がある様に思った。

そして万象はこの精霊の星に古くから伝わっていた、大地の大陸に関する伝説を説き明かす事こそが、自らに与えられた使命なのではないかと考えたのである。

ある意味、伝説の男が精霊の星の伝説に挑む事は運命付けられていたのかもしれない。

更に言うと、万象自身も大地の大陸に関する伝説には大変な興味を持っていた。

自分が大地の精霊の守護も受けているのに、この精霊の星において、現実には大地の大陸が存在しない。

その事がどうしても不思議でならなかった。

そして万象は各地を放浪しながら、大地の大陸に関する情報収集をする。

また実際に南半球に何度となく足を運び、調査を繰り返して、大地の大陸に関する伝説を解き明かそうとした。

その後、数百年の歳月を掛けて、やっとの事でその伝説を解明するまでに至る。

正に通常の何倍もの寿命を持った万象にしか出来ない事であったのかもしれない。

そして自分一人では大地の大陸を復活させる事が不可能である事を知って、その後、万象は再び炎の大陸へと戻って来る事となる。

しかし万象が放浪している間に、炎の大陸では炎帝が何者かに討たれていて、再び混乱を極めていた。

そんな中で万象は炎の大陸の奥地にある小さな村に辿り着く。

万象はその村で、大地の精霊の守護を受ける者達を受け入れながら、大地の大陸を復活する事が出来る、精霊の星に選ばれし者達が現れる事を待つ事になった。

そして辿り着いた村で待つ事、百年程、経った時、一人の大地の精霊の守護を受けた若者がやって来る。

その若者は崩墟という名で、言葉を発する事が出来なかったが、言葉を解する事は出来た。

そんな崩墟に対して万象は大地の精霊の守護を受けた者同士で地面を振動させて意思疎通を図る、大地の魔法を教える。

それまでの崩墟にその様な事は思い付く事すら出来なかったが、万象から教わると、すぐに習得する事が出来た。

万象はそんな崩墟の潜在能力の高さを一目で見抜いて、精霊の星に選ばれた者だと確信する。

そして崩墟と共に燿炎達、他の精霊の星に選ばれし者達が来る事を待ち続ける事となった。
[PR]
by gushax2 | 2016-06-06 06:04 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾漆/照らし出された道筋

燿炎達は万象に崩墟と引き合わされる形となった。

そして燿炎は何かを考え込む様に黙ってしまう。

燿炎は万象の名に聞き覚えがあって、それが何なのかを思い出そうと、必死に自らの記憶を探った。

そして暫くしてから燿炎が話し始める。

「五百年程前に炎の大陸を統一した炎帝。そして、その炎帝に仕えた伝説の魔法使い。炎と氷と風の魔法を使いこなし史上最強と謳われる、伝説の魔法使い、その名も万象」

「ほほう。そんな昔の事を知っている者が、まだ、おったんじゃな」

少し感心する様に万象が応えた。

燿炎が驚きの表情を顕にして言う。

「まだ、ご健在だったのですね」

「勝手にわしを殺さんでくれよ」

万象が笑いながら応えた。

燿炎はバツが悪そうに謝る。

「すみません」

「いや、いいんじゃよ。すでに死んでいると思われていても、仕方のない事じゃ」

万象が勘違いされていても無理はない事を伝えた。

そして続けて話をする。

「実はわしはな、全ての精霊の守護を受けておって、その分なのか、寿命が通常の何倍も長い様なんじゃ」

それを聞いた燿炎は万象に訊く。

「と云うと、大地の精霊の守護も受けておられるのでしょうか?」

「そういう事になるかな」

万象はそう応えた。

燿炎が万象に伺う。

「もう一つ、お尋ねしたい事があります」

「なんじゃ?」

万象が短く応えた。

再び燿炎が万象に訊く。

「何故、炎帝の下を離れたのでしょうか?」

「なんの事はない。役目を終えただけの事じゃ」

万象があっさりと答えた。

三度、燿炎が万象に訊く。

「万象が炎帝の傍に居れば、炎の大陸が再び混乱に陥る事は無かったのかもしれないのでは?」

「いや、それは間違いじゃ。確かに、あの時、一時的に、ではあるが、平和を手にする事が出来たのかもしれない。しかし争いに依って手に入れた平和など、そう長続きするもんじゃないんじゃよ」

万象は燿炎の疑問を否定した上で、自身の考えを述べた。

幾度となく燿炎が万象に訊く。

「では、それも定めだと?」

「そうじゃ」

万象が短く応えた。

此処で燿炎は考え込んでしまう。

すると今度は万象の方から訊いてくる。

「主等、こらから、どうするつもりじゃ?」

燿炎は考え込んだまま答えようともしない。

それを見て凍浬が応える。

「露衣土を倒す」

「それは解っておる。その前に、やっておく事があるんじゃよ」

凍浬の言葉を聞いた万象が言った。

今度は凍浬が万象に訊く。

「やっておく事とは?」

「大地の大陸を蘇らせる事じゃよ。そうする事で多くの民衆の支持を得られる」

万象が凍浬の問いに答えた。

凍浬は万象の言葉に疑問を呈する。

「なるほど。しかし大地の大陸はその存在すら明らかになっていないのでは?」

「大地の大陸は南にある。南にある四つの小島で、それぞれ炎、氷、風、大地の精霊の守護を受けて、この星に選ばれた者達の魔法に依り、大地の大陸は蘇る」

凍浬の疑問に対して、万象は信じられない様な話をした。

凍浬を始めに反乱軍の者達は皆、呆気に取られている。

そんな反乱軍の者達を横目に万象は続けて言う。

「主等は崩墟を加えて、この星に選ばれし者達が揃ったではないか」
[PR]
by gushax2 | 2016-06-05 05:50 | 弐章/英雄