カテゴリ:弐章/英雄( 36 )

弐章/英雄/挿話拾陸/最後の欠片

燿炎達は万象に連れられて、村の広場へやって来る。

広場の中心には焚火があって、その周囲を反乱軍の仲間達が囲んでいた。

しかし数名の者達の顔が見られない。

燿炎は麗羅に尋ねる。

「他の者達は?」

麗羅は無言で首を横に振った。

「そうか、」

燿炎は少し落胆したが、落胆ばかりもしていられないので、すぐに気を取り戻した。

そこへ万象が寄って来て燿炎に問う。

「犠牲者が出たのはお気の毒じゃが、主等には、やるべき事があるじゃろう?」

燿炎は何も言わずに強い表情で応えた。

更に万象は続けて燿炎に問う。

「そこで主等に会わせたい者がおるのじゃが、会ってみるか?」

「どの様な者なのでしょうか?」

燿炎は万象に訊き返した。

万象は燿炎の問いには構わずに、別の質問を燿炎に向ける。

「主等は露衣土が大地の精霊の守護を受けている事を承知しておるのか?」

「いえ。俺は露衣土とは幼い頃からの付き合いで、よく知っているが、そんな話は聞いた事もありません」

燿炎はまだ万象の言った事が信じられない様な感じで応えた。

それを予測していた様に語る、万象。

「やはりな。まあ、自分が何の精霊の守護を受けているかなんて、わざわざ他人に話したりはせんだろうから、意図的に隠していたのかは判らんが、それは紛れも無い事実ではある」

「そうですか。俺はてっきり、露衣土は氷の精霊の守護を受けているもんだと思っていました」

燿炎は己の思い込みを恥じる様に言った。

それを聞いた万象は更に驚く話をする。

「露衣土は氷の精霊の守護も受けておるよ。ごく稀だが、同時に複数の精霊の守護を受ける者もおる。露衣土はそんな一人である」

「では、ひょっとしたら、氷の魔法で相手を凍らせて、その凍らせた相手を砕いていたのは大地の魔法だったりするのでしょうか?」

燿炎は万象の話から生じた疑問を投げ掛けた。

投げ掛けられた疑問を肯定して、更に続ける、万象。

「恐らく、というよりは間違いなく、そうであろう。凍らせたものを氷の魔法で砕く事は出来ん」

「なるほど。そうだったんですか」

燿炎は納得した。

そして万象が話を元に戻す。

「そこで、じゃ。主等には足りない部分を補う者が必要なんじゃないかと思っておるのじゃが」

「その様な者がおられるのでしょうか?」

燿炎は万象に尋ねた。

万象は再び燿炎に問い掛ける。

「だから会ってみる気はないか?」

燿炎は少し戸惑ったが、すぐに返事をする。

「是非、会わせて下さい」

「ちょいと、崩墟を呼んで来ておくれ」

万象は声を大きくして、少し離れた所に居た男に指示した。

暫くすると、とても大きな男がやって来る。

燿炎の体もかなり大きい方だったが、崩墟という男の体は燿炎よりも、更に二回り程、大きかった。

皆が崩墟の大きさに驚いてる中、万象が話し始める。

「これが崩墟じゃ。この男、大地の精霊の守護を受けている。言葉を発する事は出来ないが、言葉を解する事は出来る。中々、役に立つ男じゃが、どうじゃ?主等と共に連れて行っては貰えまいか?」

そう言われて燿炎は直接、崩墟に訊く。

「俺達の方から是非にと、お願いしたいくらいだが、本人はどう思っているのか。俺達はいつ死ぬやもしれぬ戦いの中に居る。それでも構わないのか?」

崩墟は無言で頷いた。

「この男もまた主等と共に露衣土を倒す定めにあるのじゃよ」

万象はこの出会いが避けられぬ運命であるかの様に言った。
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by gushax2 | 2016-06-04 06:13 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾伍/偶然の出会い、必然の導き

「燿炎、まだ、判らないのか?」

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問うた。

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。

─────

自らの叫び声と共に目を覚ます、燿炎。

これまでに何度となく見ている夢であった。

そして過去に現実として起こった事でもある。

すると何処かからか、笑い声が聞こえてきた。

周りを見渡すと、麗羅と凍浬がこちらを見て笑っている。

そして麗羅が笑いながら燿炎に言う。

「こんな状況になってまで何も変わらないのね」

「そう言う麗羅も相変わらずだな」

凍浬は麗羅へ皮肉を言って微笑んだ。

すぐさま麗羅が凍浬に言い返す。

「うるさいわね。あんたも相変わらずに嫌な奴ね」

麗羅は少し臍を曲げた様だった。

凍浬は苦笑する。

そんな二人の様子を見て、燿炎は少しホッとした。

そこへ一人、年配の男がやって来て、燿炎に声を掛ける。

「やっと気が付かれましたか」

「貴方は?」

燿炎はその人物が誰なのか判らずに訝しげに尋ねた。

年配の男は燿炎の問いに応える様に自らの名を明かす。

「万象と申します」

「万象が私達を助けてくれたのよ」

麗羅が口を挟んできた。

燿炎は麗羅の言葉を聞いて、万象に礼を述べる。

「そうでしたか。それは、どうもありがとうございました」

「いやいや、いいんじゃよ。たまたま通り掛かったついでに助けたまでじゃ」

万象は謙遜する様にそう応えた。

そして燿炎は思い起こす様に言う。

「そう言えば、俺達は、」

「そうよ。露衣土軍に襲われたみたい」

麗羅がすぐさま応えた。

燿炎は思い出した様に言う。

「そうだ。俺達は地割れに飲み込まれたんだ」

「ふふふ」

麗羅はそんな燿炎を見て微笑んだ。

燿炎は状況を把握した事で、万象に対する関心が強まって、再び万象に尋ねる。

「しかし、あの様な状況で俺達を助ける事が出来るなんて。それに、あの様な場所を通り掛かる事も普通じゃ考えられない。貴方は一体?」

「まぁ、気になさるな。それも定めじゃ」

万象は事も無げに、そう応えた。

燿炎は納得がいかなかったが、命の恩人にこれ以上、同じ事を尋ねるのは失礼だと思って話題を変える。

「では、此処は何処でしょうか?」

「わしと仲間が暮らす村じゃよ」

万象はすぐに応えた。

燿炎は考える様に少し黙り込む。

すると万象が燿炎達に声を掛ける。

「皆さん、気が付かれた様なので、こちらに来なさいな」

そう促されても、燿炎はまだ考え込んでいる。

そして独り言の様に呟く。

「万象。何処かで聞いた名だな」

燿炎は万象と云う名に聞き覚えがある様であった。

麗羅が燿炎を急かす。

「そんな事いいから、早く行きましょう」

燿炎は苦笑しながら麗羅達と共に万象に着いて行く。
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by gushax2 | 2016-06-03 05:25 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾肆/彷徨う反乱軍

炎の大陸、元、炉の国の森の中、反乱軍が歩を進めていた。

露衣土を倒す為には反乱軍に、大地の精霊の守護を受けて大地の魔法を高いレベルで使いこなせる者が必要だと、燿炎は考えており、炎の大陸の何処かに『大地の精霊の守護を受けた者達が集まって暮らしている村がある』という噂を頼りに、炎の大陸を彷徨う事となったのである。

燿炎は露衣土が大地の精霊の守護も受けている事を知っていた訳ではなかったが、露衣土が大地の精霊の守護を受けた者達を受け入れていた事は周知の事実として知ってはいた。

だから今後、露衣土軍との戦いを進めていく上で、どうしても大地の精霊の守護を受けた者達を反乱軍の戦力として加えておきたかったのである。

その様な理由で、今、反乱軍は深い森の中を苦しみながら進んでいた。

燿炎達、反乱軍の者達は誰一人として口を開かない。

かなり疲労の色が濃い様だ。

それでも前に進んで行く外はない。

暫く森の中を進んでいると、一面拓けた場所に辿り着く。

しかし拓けているだけで、他に何がある訳でも無かった。

そして、その周囲もまた森に覆われている。

「なんなんだ?此処は?」

反乱軍の中の誰かが口を開いた。

「なんにしろ、警戒はしておけよ」

燿炎が皆に注意を呼び掛ける。

周囲を森に囲まれている場所で、この場所は少し異様にも感じられた。

人々が暮らしていた形跡でもあれば何も異様な事はないのだが、形跡も何も無いのである。

人間が森の中に集落を作る場合、主に二通りの方法が考えられた。

一つは元々拓かれた場所に集落を作る。

もう一つは人間が森を切り拓いて、そこに集落を作る。

いずれにしろ、この様に拓かれた場所は人間が集落を作るのに持ってこいであるが故に、人々の生活の痕跡が無い事が不自然にも感じられたのだ。

だからと言って、このまま足踏みしていても、どうにもなるものでもないので、反乱軍は警戒を強めて歩を進めて行った。

拓けた場所の中腹辺りに差しかかると、突然に地割れが起きて、反乱軍の殆どが飲み込まれてしまう。

反乱軍の中でも風の精霊の守護を受けた者達だけは、自ら風の魔法を行使して、空中に飛んで難を逃れた。

しかし風の精霊の守護を受けた者達の中でも麗羅だけは燿炎達と共に地割れに飲み込まれてしまう。

麗羅は事、魔法において、攻撃をする事が苦手だったが、攻撃を受ける事も苦手だったのである。

サポート魔法に限っての事だが、準備する時間を十分に与えれば、麗羅以外には誰にも出来ない様な魔法を使う事も出来たが、咄嗟の判断で魔法を使う事が苦手でもあった。

そして難を逃れたかに見えた、麗羅以外の風の精霊の守護を受けた者達に向かって、周囲の森の中から多数の炎と氷の矢が襲い掛かる。

どうやら敵の襲撃を受けた様であった。

恐らくは先程の地割れも大地の魔法に拠るものであろう。

空中に飛んだ風の精霊の守護を受けた反乱軍の者達は次々と倒されていく。

そこに一人の男が現れる。

そのまま地割れした地面の淵に立って、地割れした中の方を覗き込んだ。

「この程度なのか、反乱軍は」

物足りなさそうに男が呟いた。
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by gushax2 | 2016-06-02 05:32 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾参/引き継がれる遺志

炮炎。

氷の大陸にあった浄の国で弟である燿炎より二年程、先んじて生まれ、幼少の頃から、よく露衣土や燿炎と行動を共にしていた。

露衣土が成人した事を切っ掛けにして、露衣土と燿炎は力ずくで浄の国の政権を奪い取る為の戦争を始める。

しかし炮炎は一人、二人の下を離れる事となった。

炮炎は露衣土の強引な考え方についていけなくなったのだ。

そして燿炎も一緒に連れて行こうとしたのだが、燿炎は露衣土と共に戦う事を選択したのである。

当時はそんな燿炎の選択を尊重するしかなかった。

炮炎自身もまさか露衣土の始めた戦争が精霊の星、全体にまで拡大するとは考えてもいなかったからである。

だから仕方なく、意見の合わない炮炎の方が一人で二人の下を去る事になった。

その後、炮炎は炎の大陸に渡って、煌という国にあった小さな村に辿り着いて、その村で暮らしていく事となる。

そして浄の国を乗っ取った露衣土が統一戦争を始めるが、炮炎の暮らしていた村は戦火に巻き込まれる事も無く、静かに平和な毎日を過ごしていた。

そんな、ある日、麗羅と凍浬が村に流れ着く。

麗羅と凍浬は統一戦争に因り、家族を失って、炮炎が暮らす村まで、やって来たのである。

炮炎はそんな麗羅と凍浬を非常に可愛がった。

炮炎自身もこの村に流れ着いたからか、二人には過去の自分が重なったのかもしれない。

そして、そうこうしている内に麗羅と凍浬も成長していく。

特に麗羅はとても美しい女性へと成長して、男性達の注目を集める様になっていた。

しかし当の麗羅は炮炎を慕っていたので、他の男性達には目もくれなかったのである。

炮炎はそんな麗羅に対して、最初はまともに相手をしていなかったが、一途な麗羅にいつしか愛情が芽生え始めて、やがて二人は恋人同士の関係となっていった。

そして暫くの間、二人は幸福な日々を過ごす。

しかし、そんな幸福な日々もそう長くは続かなかった。

その後、統一戦争は終結したのだが、炮炎は統一戦争後の露衣土の政策に対して、危機感を感じる事となる。

そして、このまま放っておけば、いずれは、この村も平和には過ごしていけなくなると云う事を察知して、露衣土を倒す為にと反乱軍を立ち上げる事になった。

当然にその反乱軍には成長した麗羅と凍浬も加わる事となる。

麗羅と凍浬の二人は共に反乱軍の中で、重要な役割を果たす様になっていく。

そんな中、事ある毎に反乱軍の仲間達に対して、露衣土を倒す為には燿炎の力が必要だと説いていた炮炎は、反乱軍の皆には内緒で燿炎を説得しに、単身、露衣土城に乗り込んで行った。

しかし炮炎は燿炎を説得するには至らず、炮炎は燿炎の目前で露衣土に殺されてしまう。

しかし以前から露衣土の政策に疑問を感じていた燿炎は、その事を切っ掛けにして露衣土の下を去る決意を固め、反乱軍へと身を投ずる事になる。

そして燿炎は炮炎の遺志を継ぐ形で反乱軍のリーダーとなって、露衣土軍との壮絶な戦いを繰り広げていく事になった。
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by gushax2 | 2016-06-01 05:46 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾弐/旅立ちの因

突然、露衣土の部屋に一人の男が飛び込んで来た。

そして男は炮炎に声を掛ける。

「炮炎」

「燿炎」

炮炎が部屋の入口を方へ振り返って、男の声に応えた。

部屋に入って来た男の名は燿炎。

炮炎の実の弟でもあった。

続け様に今度は炮炎が燿炎へ声を掛ける。

「久しぶりだな。元気だったか!?」

「見ての通りさ」

今度は燿炎が炮炎の声に応えた。

露衣土は黙って二人のやり取りを見ている。

燿炎に同行の意思がないかを尋ねる、炮炎。

「一緒に来ないか?」

「一緒にって、」

そう言って燿炎は言葉を詰まらせた。

炮炎が燿炎を説得しようと試みる。

「このまま露衣土と共に力に依る制圧を続ける事で、本当の平和が訪れると本気で思うのか?」

「それは、」

燿炎は再び言葉を詰まらせた。

説得を続ける、炮炎。

「すでに露衣土は自らの手で正義を手放している」

燿炎は何も言えずにいる。

そんな燿炎の様子を見て、更なる説得を続ける、炮炎。

「いつまでも露衣土と共に力に依る制圧を続けても、その先に待ち受けているものは滅びしかない」

「確かに露衣土の手段には疑問を感じる事もある」

絞り出す様に燿炎は自らの迷いを炮炎に打ち明けた。

炮炎が燿炎に対する疑問をぶつける。

「だったらば何故?いつまでも露衣土の傍にいる?」

「それでも、他に正しい手段がある様には思えない」

自身の率直な想いを燿炎は炮炎にぶつけた。

そんな燿炎の想いを受けて、炮炎が語り出す。

「確かに何が正しいのかは俺にも判らん。しかし露衣土の手段が間違っている事だけは確かだ。我々は正しい事をしようとするよりも、間違った事をしない様にしながら、何が正しいのかを模索していくべきなんじゃないのか!?」

燿炎は再び何も言えなくなる。

更に語り続ける、炮炎。

「この世界は決して露衣土だけのものではないし、我々だけのものでもない。他にも大勢の仲間がいる。そんな仲間達と共に悩み苦しみ、時には笑い合って、一緒に成長していけばいいのではなかろうか」

「炮炎、」

思わず漏れる、燿炎の声。

炮炎が必死に語り掛ける。

「露衣土の様に自らの考えで世界を制限して、次々と仲間を排除していく手段では、いずれ自らを排除してしまう事にも為り得る。今ならまだ間に合う。まだ遅くはないんだ。まだ諦めるな!」

燿炎は返す言葉が見つからなかった。

そして今度は燿炎に同行を迫る、炮炎。

「俺と一緒に来い」

燿炎は言葉を出せないでいる。

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問う。

「燿炎、まだ、判らないのか?」

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫んだ。

露衣土は燿炎の制止には構わずに、氷の魔法を使う。

いきなり炮炎の体が一瞬にして凍り付いた。

そして、すぐに凍らされた炮炎の体が粉々に砕け散る。

露衣土が大地の魔法を使い、地面を振るわせて振動波を生み出し、その振動波で凍った炮炎の体を砕いたのだった。

「炮炎ー!!」

燿炎は炮炎の体があった中空に向かって吠えた。
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by gushax2 | 2016-05-31 05:21 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾壱/終わり無き平行線

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

三年程前に統一戦争も終わって、露衣土帝国は各地に散在する反抗勢力の掃討に力を入れていた。

露衣土は城にある自室で一人、篭っている。

そして、いつもの様に窓から外の景色を眺めていた。

その部屋に突然、報告係の男が入って来る。

「露衣土様、炮炎と名乗る者が面会を求めているのですが、どの様に致しましょうか?」

報告係の男が露衣土に対応を伺った。

露衣土は報告係の男に指示を出す。

「ほほう、よく此処まで来れたもんだ。構わん。通せ」

「畏まりました」

そう応えると報告係の男は部屋を出て行った。

暫くすると、先程と同じ報告係の男がもう一人、別の男を連れて露衣土の部屋へやって来た。

「露衣土様、お連れ致しました」

報告係の男が露衣土に言った。

露衣土は報告係の男を下がらせる。

「構わん。下がってよい」

「畏まりました」

そう言って報告係の男は再び部屋を後にした。

露衣土が部屋に残った男に話し掛ける。

「久しぶりだな」

「そうだな」

男は短く応えた。

懐かしそうに声を掛ける、露衣土。

「何年振りになるんだ?」

「忘れちまったな」

男は素っ気なく応えた。

露衣土が男に用件を伺う。

「で、一体、今更、何しに此処へ来たんだ?」

「察しは、つくだろうよ」

男はぶっきら棒に言った。

自分にとって都合のいい察しをする、露衣土。

「降伏しに来てくれたのかな!?」

「場合に拠っては、それも考えない訳ではないけどな」

男はずっと、ぶっきら棒な感じであった。

痺れを切らした露衣土が男を威圧する様に言う。

「炮炎よ、相変わらずだな。一体、此処を何処だと思ってるんだ!?」

「それが、どうかしたのか!?」

炮炎は飄々と返した。

露衣土は炮炎に対して降伏を要求する。

「こちらとしては降伏して貰わん事には無事に帰す訳にはいかないんだけどな」

「そうなのか!?」

炮炎は惚ける様に言った。

今度は炮炎に降伏の条件を尋ねる、露衣土。

「まぁ、いいさ。取り敢えず、どうしたら降伏するのか訊いておこう」

「力に依る制圧を止めれば戦う意味は無いさ」

炮炎は再び、ぶっきら棒に言った。

露衣土が炮炎の言葉に呆れる様に言う。

「本当に何も変わってないな。まだ、そんな事を言うのか」

「まだも何も争いは争いしか生み出さん」

今度は強い口調で炮炎が言った。

炮炎の態度に不満を顕にする、露衣土。

「私が何の為にこの星を統一したと思ってるんだ!?」

「そんな事を俺が知る訳ねぇだろ」

炮炎が露衣土を突き放す様に言った。

露衣土は炮炎に持論をぶつける。

「国家の対立こそが争いの根源だとは思わんか!?」

「確かに、その点は一理あるのかもしれん。しかし力に依る制圧を続けていれば、それもまた、争いの根源に為り得るんだよ」

炮炎は露衣土の持論を一部、肯定しながらも、自身の反論をした。

今度は炮炎に解決策を尋ねる、露衣土。

「では、どうすれば争いを無くす事が出来ると考える?」

「さぁな、自分で考えな」

炮炎が再び露衣土を突き放す様に言った。

露衣土は炮炎を責める様に言う。

「話にならんな。平和の為には犠牲も必要だという事がまだ判らないのか」

「判る訳ねぇだろ!お前が殺している人間は決して平和の為の犠牲なんかじゃない!」

炮炎は語気を強めて反論した。

呆れる様に言う、露衣土。

「何を言っても無駄な様だな」

「それは、そっちだろうが」

炮炎は言い返した。

露衣土は炮炎に対して再度、念を押す。

「どうやら降伏する気は無い様だな」

「だから力に依る制圧を止めれば考えるさ」

炮炎も再度、露衣土の方に再考を促した。

あくまでも自身の考えを貫く、露衣土。

「誰も反抗しなくなれば力を使わなくても済むんだよ」

「今更、何を言ってやがる。自分で撒いた種じゃねぇか」

炮炎は露衣土に皮肉を言った。

話し合いは、いつまで経っても平行線にしかならない。

そこへ突然、部屋の扉が開いて炮炎に声が掛かる。

「炮炎」

一人の男が露衣土の部屋に入って来た。
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by gushax2 | 2016-05-30 05:41 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾/氷の貴公子

凍浬。

炎の大陸にあった灯の国に生まれたが、幼少の頃の統一戦争時に家族を失って、炎の大陸を彷徨う事になる。

その最中に同じ境遇で炎の大陸を彷徨っていた麗羅と出会って、その後、行動を共にする事となった。

そして炮炎が暮らしていた村に流れ着いて、麗羅と共にその村で暮らしていく事になる。

炮炎自身も元々、流れ者だったからか、村に流れ着いた麗羅と凍浬を非常に可愛がった。

その後、統一戦争後の露衣土の政策に対して、炮炎が反乱軍を立ち上げる事になると、凍浬も麗羅と共にその反乱軍に加わる事となる。

凍浬は炮炎や燿炎と比べると非常に端正な顔立ちで、氷の精霊の守護を受けていた事もあって、一部の、特に女性達の間で『氷の貴公子』と呼ばれたりして、非常に人気があったのだが、凍浬自身は幼い頃から共に暮らしてきた麗羅に密かな想いを寄せていた。

しかし、その麗羅は凍浬には見向きもせずに炮炎、そして炮炎を失ってから後は燿炎へと想いを寄せる事になる。

麗羅からすると凍浬は家族の様なもので、恋愛の対象とは為り得なかった。

そんな事とは露知らずの周囲の者達は麗羅に対して一部で、麗羅の趣味に対する疑問を口にしたりする。

それを耳にした麗羅は時に暴れたりする事もあったが、凍浬はそんな麗羅に対して、愛想を尽かす訳でもなく、ただ見守る事に徹していた。

因みに凍浬は前述でも述べた通りに氷の精霊の守護を受けているのだが、氷の魔法に関しては、露衣土と同等、或いは、それ以上の使い手であるとの評判を得られる程に成長をしていく。

実際に反乱軍が露衣土帝国と戦いを続けていく上で、凍浬の行使する氷の魔法は欠かせなかった。

麗羅の成長が反乱軍の中で大きかったのと同様に、凍浬の成長も反乱軍の中で大きく戦況を左右したのである。

炮炎の炎の魔法だけでは炎の精霊の守護を受けた者や風の精霊の守護を受けた者を倒す事は出来ない。

その様な事から、炮炎の他に炎の精霊の守護を受けた者以外で尚且つ、高いレベルでの攻撃魔法を使いこなせる者を反乱軍は必要としていたのである。

そんな反乱軍の弱点を上手い具合に凍浬の成長が埋めていく事になった。

また精霊の星の出生率を考えてみても、戦う相手には炎の精霊の守護を受けている者が多くもなる。

その様な事まで考えると、反乱軍の中で事、戦闘においては、炮炎以上に凍浬の方が重要な役割を担う様にもなっていく。

しかし同じ氷の精霊の守護を受けている露衣土には氷の魔法は効き目がないので、凍浬自身が露衣土を倒す事は出来ない事を理解していた。

だから炮炎を失った際に一時的に反乱軍のリーダーになりはしたが、燿炎が反乱軍に加わる際にすんなりと燿炎にリーダーの座を譲ったのである。

それというのも凍浬自身は自分がリーダーには向いていないとも思っていたので、ある意味では、燿炎がやってくる事を何処か待ち望んでいたりもした。

そういう意味で、凍浬は燿炎にリーダーの座を押し付けたと言えるのかもしれない。
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by gushax2 | 2016-05-29 05:57 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話玖/嵐の妖精

麗羅。

炎の大陸にあった焔の国で生まれたが、幼少の頃の統一戦争時に家族を失って、炎の大陸を彷徨う事になる。

その最中に同じ境遇で炎の大陸を彷徨っていた凍浬と出会って、その後、行動を共にする事となった。

そして炮炎が暮らしていた村に流れ着いて、凍浬と共にその村で暮らしていく事になる。

炮炎自身も元々、流れ者だったからか、村に流れ着いた麗羅と凍浬を非常に可愛がった。

その後、麗羅は大人になるにつれて、大変に美しい女性へと成長していく。

そんな麗羅に恋心を抱く男性も大勢いたが、当の麗羅は炮炎に想いを寄せていた。

炮炎はそんな麗羅の想いを知っても、最初は余りまともには受け取らずにいたが、事ある毎に想いをぶつけてくる麗羅を放っておけなくなってきて、いつしか炮炎と麗羅は恋人関係となり、幸せな日々を過ごす事となる。

しかし、その幸せな日々もそう長くは続かずに、統一戦争後の露衣土の政策に対して炮炎が反乱軍を立ち上げる事になり、麗羅も凍浬と共にその反乱軍に加わる事となった。

その後、麗羅は炮炎を失う事になるが、その直後から反乱軍に加わる事になった炮炎の弟で炮炎と面影の似ている燿炎に想いを寄せる様になる。

しかし燿炎はそれに気付いても、知らぬ振りをし続けているのであった。

反乱軍のリーダーとして炮炎の遺志を継ぐ事は納得が出来ても、麗羅の恋人として炮炎の代わりを務める気にはなれなかったからである。

麗羅はそんな燿炎を根性無し、と思ったりもしていたが、炮炎の面影が強い燿炎に想いを寄せずにはいられなかった。

因みに麗羅は風の精霊の守護を受けており、攻撃魔法はさほど得意ではないのだが、サポート魔法に関しては非凡なところがあって、精霊の星の中で他に対抗出来る者は居ないと言っていい程の実力者へと成長していく。

そんな麗羅の存在は反乱軍の中で日に日に大きくなっていった。

炮炎が反乱軍を率いていた頃、反乱軍は麗羅の成長と共に露衣土帝国軍と互角以上の戦いも出来る様になっていく。

攻撃面では炮炎と凍浬の魔法が中心ではあった。

しかし攻撃魔法だけで戦うと、悪戯に犠牲者を増やすだけになってしまう。

犠牲者を減らして戦いを有利に進める為にも、麗羅の魔法が大変に役立った。

麗羅の魔法があったおかげで、反乱軍は露衣土帝国軍に屈する事なく、此処まで戦いを続ける事が出来たと言っても過言ではない。

そして麗羅は燿炎が反乱軍のリーダーになってからも、燿炎をよくサポートしている。

炎の魔法と風の魔法は非常に相性が良かったので、使い方次第で何倍にも魔法の効果を上げる事が出来た。

すでに麗羅は反乱軍の中で欠かせない存在になっていたのである。

更に麗羅は非常に美しい容姿をしていたのだが、非常に我が儘な性格で怒ると手がつけられない様なところもあって、一部の間では『嵐の妖精』と畏れられてもいた。

しかし当の麗羅はそう称される事を快くは思っていなかった様である。

その様な事もあってか、本人を目の前にして、そう呼べる程、勇気のある者は居なかった。
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by gushax2 | 2016-05-28 06:15 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話捌/灼熱の反逆者

燿炎。

氷の大陸にあった浄の国で兄である炮炎から二年程、遅れて生まれ、幼少の頃から、よく露衣土や炮炎と行動を共にしていた。

露衣土が成人した事を切っ掛けにして、露衣土と燿炎は力ずくで浄の国の政権を奪い取る為の戦争を始める。

その際に燿炎と炮炎は袂を分かつ様になってしまう。

決して炮炎との仲が悪かった訳ではなく、寧ろ兄弟の仲は良かった。

ただ燿炎は炮炎の考え方よりも露衣土の考え方に、より共感が出来ていたのである。

また燿炎にとって露衣土は目標とすべき兄貴分で、血の繋がりのある炮炎よりも、血の繋がりが無いのに自分の事を目に掛けてくれる露衣土に燿炎は心酔していた。

その様な事もあってか、炮炎が燿炎を連れて行こうとした時に、燿炎は露衣土と共に戦う事を選択したのである。

だから炮炎は一人で二人の下を去って行くしかなかった。

そして燿炎は浄の国の政権奪取の際、その後の統一戦争時に、目覚ましい活躍をした事で精霊の星にその名を知らしめる事になる。

特に戦闘における、燿炎の働きぶりには目を見張るものがあった。

恐らく燿炎が居なければ、露衣土が統一戦争を終結させる事は出来なかっただろう。

ある意味、燿炎は統一戦争における、最大の功労者でもあった。

燿炎は逸早く戦争を終わらせる事が炮炎との再会に繋がると信じていたのである。

しかし統一戦争が終わっても、その願いは叶う事はなく、それどころか統一戦争後の露衣土の政策に疑問を募らせる様になっていってしまう。

その後、やっとの事で、炮炎との再会が叶う事となるのだが、その時に、とある事件が起こる事に因って、燿炎もまた露衣土の下を去る決断をする事となってしまう。

そして自ら炎の大陸に展開していた反乱軍の掃討に出向いて、そのまま反乱軍へと身を投ずる事となる。

同行した部下の内、何人かは燿炎と行動を共にする事を望んだが、同行は一切、許さずに、本国へ帰るように命じて、単身での投降となった。

燿炎はそれが露衣土に対して、通すべき筋だと思っていたからだ。

そして燿炎が身を投じた反乱軍は、元々、炮炎をリーダーとしていた反乱軍であった。

燿炎が反乱軍に加わると、燿炎は反乱軍のリーダーを押し付けられてしまう。

炮炎が死ぬ前に反乱軍の仲間達へ、燿炎の事を話していたらしく、炮炎の遺志を継ぐ形で、燿炎はこの反乱軍のリーダーになる事を引き受けざるを得なかった。

勿論、最初は新入りの燿炎にリーダーを任せる事を不満に思う者も少なくなかったが、それ以上に炮炎に対する信頼が厚かった事もあって、外見が炮炎とそっくりな燿炎をリーダーとして、時間と共に自然と受け入れられる様になっていく。

更に燿炎は炮炎以上に、強力な炎の魔法を使う事が出来たので、その実力も高く評価された。

恐らく炎の魔法の使い手では、精霊の星でも一二を争うレベルであろう。

そして露衣土帝国から反乱軍へと身を投じた事も相まって、一部の間では『灼熱の反逆者』と呼ばれていた。
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by gushax2 | 2016-05-27 04:51 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話漆/語り合う者達

「燿炎、まだ、判らないのか?」

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問うた。

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。

─────

自らの叫び声と共に目を覚ます、燿炎。

これまでに何度となく見ている夢であった。

そして過去に現実として起こった事でもある。

「どうしたの?」

燿炎が目を覚ました事に気付いた麗羅が声を掛けてきた。

平静を装う、燿炎。

「いや、何でもない」

「何でもない事はないだろう」

麗羅の向こうで寝ていた凍浬が口を挟んできた。

燿炎は凍浬に大声で言う。

「うるせぇ!わざわざ起きてくんな!」

「うるせぇのは燿炎の方じゃねぇか!」

凍浬が大声で言い返した。

麗羅が凍浬を睨んで言う。

「凍浬」

「また叫んでいたのか」

燿炎は独り言の様に呟いた。

そして続けて燿炎が誰ともなしに言う。

「なぁ、真の平和って、なんなんだろうな!?」

「そうね、」

麗羅は相槌を打った。

自身の意見を述べる、凍浬。

「少なくとも露衣土が居る限り、平和なんてものは幻のままだろうな」

「そうか!?」

燿炎は凍浬に短く訊いた。

凍浬も短く応える。

「そうさ」

「俺は露衣土を倒したところで、真の平和が来るとは思えないんだよな」

凍浬の意見に対して、燿炎は疑問を呈した。

燿炎に理由を訊く、麗羅。

「どうして、そう思うの?」

「以前、露衣土と統一戦争を戦っていた時と、今現在、反乱軍として戦っていて、なんら変わりがない様に思うんだ」

燿炎は麗羅の問いに答えた。

凍浬が燿炎の言葉を限定的に肯定する。

「戦っている最中は、そうだろうな」

「そうね、問題はその後をどうするかでしょうね」

麗羅が凍浬の言葉を補足した。

更なる補足する、凍浬。

「露衣土はその後に大きな過ちがあるのさ」

「しかし、それでも同じ事の繰り返しなのではないだろうか」

尚、拭えない疑問を燿炎が口にした。

麗羅は燿炎の疑問に対して、先程と同様の答えをぶつける。

「だから、その後に同じ事を繰り返さない様に、ね」

「じゃあ訊くが、今も尚続く、露衣土の力に依る制裁に疑問は感じないのか?」

今度は凍浬が燿炎に訊いた。

「疑問を感じたからこそ、私達のところへ来たんでしょう」

燿炎が答える前に麗羅が代わりに答えてしまった。

麗羅の言葉に続く様に凍浬が嫌味ったらしく言う。

「もう少し早く気付いていれば、炮炎を死なせずに済んだのかもな」

「それは言わない約束でしょう!」

麗羅が凍浬に怒った。

数瞬の沈黙が三人を包み込む。

燿炎、麗羅、凍浬以外の者達は寝たふりをしたまま、三人のやり取りを聞いていた。

「確かに凍浬の言う通りかもしれないな。炮炎を殺したのは、俺なんだろうな」

沈黙を破って、燿炎が呟く様に言った。
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by gushax2 | 2016-05-26 05:18 | 弐章/英雄