<   2016年 05月 ( 31 )   > この月の画像一覧

弐章/英雄/挿話拾弐/旅立ちの因

突然、露衣土の部屋に一人の男が飛び込んで来た。

そして男は炮炎に声を掛ける。

「炮炎」

「燿炎」

炮炎が部屋の入口を方へ振り返って、男の声に応えた。

部屋に入って来た男の名は燿炎。

炮炎の実の弟でもあった。

続け様に今度は炮炎が燿炎へ声を掛ける。

「久しぶりだな。元気だったか!?」

「見ての通りさ」

今度は燿炎が炮炎の声に応えた。

露衣土は黙って二人のやり取りを見ている。

燿炎に同行の意思がないかを尋ねる、炮炎。

「一緒に来ないか?」

「一緒にって、」

そう言って燿炎は言葉を詰まらせた。

炮炎が燿炎を説得しようと試みる。

「このまま露衣土と共に力に依る制圧を続ける事で、本当の平和が訪れると本気で思うのか?」

「それは、」

燿炎は再び言葉を詰まらせた。

説得を続ける、炮炎。

「すでに露衣土は自らの手で正義を手放している」

燿炎は何も言えずにいる。

そんな燿炎の様子を見て、更なる説得を続ける、炮炎。

「いつまでも露衣土と共に力に依る制圧を続けても、その先に待ち受けているものは滅びしかない」

「確かに露衣土の手段には疑問を感じる事もある」

絞り出す様に燿炎は自らの迷いを炮炎に打ち明けた。

炮炎が燿炎に対する疑問をぶつける。

「だったらば何故?いつまでも露衣土の傍にいる?」

「それでも、他に正しい手段がある様には思えない」

自身の率直な想いを燿炎は炮炎にぶつけた。

そんな燿炎の想いを受けて、炮炎が語り出す。

「確かに何が正しいのかは俺にも判らん。しかし露衣土の手段が間違っている事だけは確かだ。我々は正しい事をしようとするよりも、間違った事をしない様にしながら、何が正しいのかを模索していくべきなんじゃないのか!?」

燿炎は再び何も言えなくなる。

更に語り続ける、炮炎。

「この世界は決して露衣土だけのものではないし、我々だけのものでもない。他にも大勢の仲間がいる。そんな仲間達と共に悩み苦しみ、時には笑い合って、一緒に成長していけばいいのではなかろうか」

「炮炎、」

思わず漏れる、燿炎の声。

炮炎が必死に語り掛ける。

「露衣土の様に自らの考えで世界を制限して、次々と仲間を排除していく手段では、いずれ自らを排除してしまう事にも為り得る。今ならまだ間に合う。まだ遅くはないんだ。まだ諦めるな!」

燿炎は返す言葉が見つからなかった。

そして今度は燿炎に同行を迫る、炮炎。

「俺と一緒に来い」

燿炎は言葉を出せないでいる。

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問う。

「燿炎、まだ、判らないのか?」

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫んだ。

露衣土は燿炎の制止には構わずに、氷の魔法を使う。

いきなり炮炎の体が一瞬にして凍り付いた。

そして、すぐに凍らされた炮炎の体が粉々に砕け散る。

露衣土が大地の魔法を使い、地面を振るわせて振動波を生み出し、その振動波で凍った炮炎の体を砕いたのだった。

「炮炎ー!!」

燿炎は炮炎の体があった中空に向かって吠えた。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-31 05:21 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾壱/終わり無き平行線

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心にある露衣土城。

三年程前に統一戦争も終わって、露衣土帝国は各地に散在する反抗勢力の掃討に力を入れていた。

露衣土は城にある自室で一人、篭っている。

そして、いつもの様に窓から外の景色を眺めていた。

その部屋に突然、報告係の男が入って来る。

「露衣土様、炮炎と名乗る者が面会を求めているのですが、どの様に致しましょうか?」

報告係の男が露衣土に対応を伺った。

露衣土は報告係の男に指示を出す。

「ほほう、よく此処まで来れたもんだ。構わん。通せ」

「畏まりました」

そう応えると報告係の男は部屋を出て行った。

暫くすると、先程と同じ報告係の男がもう一人、別の男を連れて露衣土の部屋へやって来た。

「露衣土様、お連れ致しました」

報告係の男が露衣土に言った。

露衣土は報告係の男を下がらせる。

「構わん。下がってよい」

「畏まりました」

そう言って報告係の男は再び部屋を後にした。

露衣土が部屋に残った男に話し掛ける。

「久しぶりだな」

「そうだな」

男は短く応えた。

懐かしそうに声を掛ける、露衣土。

「何年振りになるんだ?」

「忘れちまったな」

男は素っ気なく応えた。

露衣土が男に用件を伺う。

「で、一体、今更、何しに此処へ来たんだ?」

「察しは、つくだろうよ」

男はぶっきら棒に言った。

自分にとって都合のいい察しをする、露衣土。

「降伏しに来てくれたのかな!?」

「場合に拠っては、それも考えない訳ではないけどな」

男はずっと、ぶっきら棒な感じであった。

痺れを切らした露衣土が男を威圧する様に言う。

「炮炎よ、相変わらずだな。一体、此処を何処だと思ってるんだ!?」

「それが、どうかしたのか!?」

炮炎は飄々と返した。

露衣土は炮炎に対して降伏を要求する。

「こちらとしては降伏して貰わん事には無事に帰す訳にはいかないんだけどな」

「そうなのか!?」

炮炎は惚ける様に言った。

今度は炮炎に降伏の条件を尋ねる、露衣土。

「まぁ、いいさ。取り敢えず、どうしたら降伏するのか訊いておこう」

「力に依る制圧を止めれば戦う意味は無いさ」

炮炎は再び、ぶっきら棒に言った。

露衣土が炮炎の言葉に呆れる様に言う。

「本当に何も変わってないな。まだ、そんな事を言うのか」

「まだも何も争いは争いしか生み出さん」

今度は強い口調で炮炎が言った。

炮炎の態度に不満を顕にする、露衣土。

「私が何の為にこの星を統一したと思ってるんだ!?」

「そんな事を俺が知る訳ねぇだろ」

炮炎が露衣土を突き放す様に言った。

露衣土は炮炎に持論をぶつける。

「国家の対立こそが争いの根源だとは思わんか!?」

「確かに、その点は一理あるのかもしれん。しかし力に依る制圧を続けていれば、それもまた、争いの根源に為り得るんだよ」

炮炎は露衣土の持論を一部、肯定しながらも、自身の反論をした。

今度は炮炎に解決策を尋ねる、露衣土。

「では、どうすれば争いを無くす事が出来ると考える?」

「さぁな、自分で考えな」

炮炎が再び露衣土を突き放す様に言った。

露衣土は炮炎を責める様に言う。

「話にならんな。平和の為には犠牲も必要だという事がまだ判らないのか」

「判る訳ねぇだろ!お前が殺している人間は決して平和の為の犠牲なんかじゃない!」

炮炎は語気を強めて反論した。

呆れる様に言う、露衣土。

「何を言っても無駄な様だな」

「それは、そっちだろうが」

炮炎は言い返した。

露衣土は炮炎に対して再度、念を押す。

「どうやら降伏する気は無い様だな」

「だから力に依る制圧を止めれば考えるさ」

炮炎も再度、露衣土の方に再考を促した。

あくまでも自身の考えを貫く、露衣土。

「誰も反抗しなくなれば力を使わなくても済むんだよ」

「今更、何を言ってやがる。自分で撒いた種じゃねぇか」

炮炎は露衣土に皮肉を言った。

話し合いは、いつまで経っても平行線にしかならない。

そこへ突然、部屋の扉が開いて炮炎に声が掛かる。

「炮炎」

一人の男が露衣土の部屋に入って来た。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-30 05:41 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話拾/氷の貴公子

凍浬。

炎の大陸にあった灯の国に生まれたが、幼少の頃の統一戦争時に家族を失って、炎の大陸を彷徨う事になる。

その最中に同じ境遇で炎の大陸を彷徨っていた麗羅と出会って、その後、行動を共にする事となった。

そして炮炎が暮らしていた村に流れ着いて、麗羅と共にその村で暮らしていく事になる。

炮炎自身も元々、流れ者だったからか、村に流れ着いた麗羅と凍浬を非常に可愛がった。

その後、統一戦争後の露衣土の政策に対して、炮炎が反乱軍を立ち上げる事になると、凍浬も麗羅と共にその反乱軍に加わる事となる。

凍浬は炮炎や燿炎と比べると非常に端正な顔立ちで、氷の精霊の守護を受けていた事もあって、一部の、特に女性達の間で『氷の貴公子』と呼ばれたりして、非常に人気があったのだが、凍浬自身は幼い頃から共に暮らしてきた麗羅に密かな想いを寄せていた。

しかし、その麗羅は凍浬には見向きもせずに炮炎、そして炮炎を失ってから後は燿炎へと想いを寄せる事になる。

麗羅からすると凍浬は家族の様なもので、恋愛の対象とは為り得なかった。

そんな事とは露知らずの周囲の者達は麗羅に対して一部で、麗羅の趣味に対する疑問を口にしたりする。

それを耳にした麗羅は時に暴れたりする事もあったが、凍浬はそんな麗羅に対して、愛想を尽かす訳でもなく、ただ見守る事に徹していた。

因みに凍浬は前述でも述べた通りに氷の精霊の守護を受けているのだが、氷の魔法に関しては、露衣土と同等、或いは、それ以上の使い手であるとの評判を得られる程に成長をしていく。

実際に反乱軍が露衣土帝国と戦いを続けていく上で、凍浬の行使する氷の魔法は欠かせなかった。

麗羅の成長が反乱軍の中で大きかったのと同様に、凍浬の成長も反乱軍の中で大きく戦況を左右したのである。

炮炎の炎の魔法だけでは炎の精霊の守護を受けた者や風の精霊の守護を受けた者を倒す事は出来ない。

その様な事から、炮炎の他に炎の精霊の守護を受けた者以外で尚且つ、高いレベルでの攻撃魔法を使いこなせる者を反乱軍は必要としていたのである。

そんな反乱軍の弱点を上手い具合に凍浬の成長が埋めていく事になった。

また精霊の星の出生率を考えてみても、戦う相手には炎の精霊の守護を受けている者が多くもなる。

その様な事まで考えると、反乱軍の中で事、戦闘においては、炮炎以上に凍浬の方が重要な役割を担う様にもなっていく。

しかし同じ氷の精霊の守護を受けている露衣土には氷の魔法は効き目がないので、凍浬自身が露衣土を倒す事は出来ない事を理解していた。

だから炮炎を失った際に一時的に反乱軍のリーダーになりはしたが、燿炎が反乱軍に加わる際にすんなりと燿炎にリーダーの座を譲ったのである。

それというのも凍浬自身は自分がリーダーには向いていないとも思っていたので、ある意味では、燿炎がやってくる事を何処か待ち望んでいたりもした。

そういう意味で、凍浬は燿炎にリーダーの座を押し付けたと言えるのかもしれない。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-29 05:57 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話玖/嵐の妖精

麗羅。

炎の大陸にあった焔の国で生まれたが、幼少の頃の統一戦争時に家族を失って、炎の大陸を彷徨う事になる。

その最中に同じ境遇で炎の大陸を彷徨っていた凍浬と出会って、その後、行動を共にする事となった。

そして炮炎が暮らしていた村に流れ着いて、凍浬と共にその村で暮らしていく事になる。

炮炎自身も元々、流れ者だったからか、村に流れ着いた麗羅と凍浬を非常に可愛がった。

その後、麗羅は大人になるにつれて、大変に美しい女性へと成長していく。

そんな麗羅に恋心を抱く男性も大勢いたが、当の麗羅は炮炎に想いを寄せていた。

炮炎はそんな麗羅の想いを知っても、最初は余りまともには受け取らずにいたが、事ある毎に想いをぶつけてくる麗羅を放っておけなくなってきて、いつしか炮炎と麗羅は恋人関係となり、幸せな日々を過ごす事となる。

しかし、その幸せな日々もそう長くは続かずに、統一戦争後の露衣土の政策に対して炮炎が反乱軍を立ち上げる事になり、麗羅も凍浬と共にその反乱軍に加わる事となった。

その後、麗羅は炮炎を失う事になるが、その直後から反乱軍に加わる事になった炮炎の弟で炮炎と面影の似ている燿炎に想いを寄せる様になる。

しかし燿炎はそれに気付いても、知らぬ振りをし続けているのであった。

反乱軍のリーダーとして炮炎の遺志を継ぐ事は納得が出来ても、麗羅の恋人として炮炎の代わりを務める気にはなれなかったからである。

麗羅はそんな燿炎を根性無し、と思ったりもしていたが、炮炎の面影が強い燿炎に想いを寄せずにはいられなかった。

因みに麗羅は風の精霊の守護を受けており、攻撃魔法はさほど得意ではないのだが、サポート魔法に関しては非凡なところがあって、精霊の星の中で他に対抗出来る者は居ないと言っていい程の実力者へと成長していく。

そんな麗羅の存在は反乱軍の中で日に日に大きくなっていった。

炮炎が反乱軍を率いていた頃、反乱軍は麗羅の成長と共に露衣土帝国軍と互角以上の戦いも出来る様になっていく。

攻撃面では炮炎と凍浬の魔法が中心ではあった。

しかし攻撃魔法だけで戦うと、悪戯に犠牲者を増やすだけになってしまう。

犠牲者を減らして戦いを有利に進める為にも、麗羅の魔法が大変に役立った。

麗羅の魔法があったおかげで、反乱軍は露衣土帝国軍に屈する事なく、此処まで戦いを続ける事が出来たと言っても過言ではない。

そして麗羅は燿炎が反乱軍のリーダーになってからも、燿炎をよくサポートしている。

炎の魔法と風の魔法は非常に相性が良かったので、使い方次第で何倍にも魔法の効果を上げる事が出来た。

すでに麗羅は反乱軍の中で欠かせない存在になっていたのである。

更に麗羅は非常に美しい容姿をしていたのだが、非常に我が儘な性格で怒ると手がつけられない様なところもあって、一部の間では『嵐の妖精』と畏れられてもいた。

しかし当の麗羅はそう称される事を快くは思っていなかった様である。

その様な事もあってか、本人を目の前にして、そう呼べる程、勇気のある者は居なかった。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-28 06:15 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話捌/灼熱の反逆者

燿炎。

氷の大陸にあった浄の国で兄である炮炎から二年程、遅れて生まれ、幼少の頃から、よく露衣土や炮炎と行動を共にしていた。

露衣土が成人した事を切っ掛けにして、露衣土と燿炎は力ずくで浄の国の政権を奪い取る為の戦争を始める。

その際に燿炎と炮炎は袂を分かつ様になってしまう。

決して炮炎との仲が悪かった訳ではなく、寧ろ兄弟の仲は良かった。

ただ燿炎は炮炎の考え方よりも露衣土の考え方に、より共感が出来ていたのである。

また燿炎にとって露衣土は目標とすべき兄貴分で、血の繋がりのある炮炎よりも、血の繋がりが無いのに自分の事を目に掛けてくれる露衣土に燿炎は心酔していた。

その様な事もあってか、炮炎が燿炎を連れて行こうとした時に、燿炎は露衣土と共に戦う事を選択したのである。

だから炮炎は一人で二人の下を去って行くしかなかった。

そして燿炎は浄の国の政権奪取の際、その後の統一戦争時に、目覚ましい活躍をした事で精霊の星にその名を知らしめる事になる。

特に戦闘における、燿炎の働きぶりには目を見張るものがあった。

恐らく燿炎が居なければ、露衣土が統一戦争を終結させる事は出来なかっただろう。

ある意味、燿炎は統一戦争における、最大の功労者でもあった。

燿炎は逸早く戦争を終わらせる事が炮炎との再会に繋がると信じていたのである。

しかし統一戦争が終わっても、その願いは叶う事はなく、それどころか統一戦争後の露衣土の政策に疑問を募らせる様になっていってしまう。

その後、やっとの事で、炮炎との再会が叶う事となるのだが、その時に、とある事件が起こる事に因って、燿炎もまた露衣土の下を去る決断をする事となってしまう。

そして自ら炎の大陸に展開していた反乱軍の掃討に出向いて、そのまま反乱軍へと身を投ずる事となる。

同行した部下の内、何人かは燿炎と行動を共にする事を望んだが、同行は一切、許さずに、本国へ帰るように命じて、単身での投降となった。

燿炎はそれが露衣土に対して、通すべき筋だと思っていたからだ。

そして燿炎が身を投じた反乱軍は、元々、炮炎をリーダーとしていた反乱軍であった。

燿炎が反乱軍に加わると、燿炎は反乱軍のリーダーを押し付けられてしまう。

炮炎が死ぬ前に反乱軍の仲間達へ、燿炎の事を話していたらしく、炮炎の遺志を継ぐ形で、燿炎はこの反乱軍のリーダーになる事を引き受けざるを得なかった。

勿論、最初は新入りの燿炎にリーダーを任せる事を不満に思う者も少なくなかったが、それ以上に炮炎に対する信頼が厚かった事もあって、外見が炮炎とそっくりな燿炎をリーダーとして、時間と共に自然と受け入れられる様になっていく。

更に燿炎は炮炎以上に、強力な炎の魔法を使う事が出来たので、その実力も高く評価された。

恐らく炎の魔法の使い手では、精霊の星でも一二を争うレベルであろう。

そして露衣土帝国から反乱軍へと身を投じた事も相まって、一部の間では『灼熱の反逆者』と呼ばれていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-27 04:51 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話漆/語り合う者達

「燿炎、まだ、判らないのか?」

炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問うた。

「炮炎」

燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。

そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。

「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」

「んー」

燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。

突然、話に割って入ってくる、露衣土。

「言いたい事は言い終わった様だな」

「止めろ!露衣土!」

燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。

─────

自らの叫び声と共に目を覚ます、燿炎。

これまでに何度となく見ている夢であった。

そして過去に現実として起こった事でもある。

「どうしたの?」

燿炎が目を覚ました事に気付いた麗羅が声を掛けてきた。

平静を装う、燿炎。

「いや、何でもない」

「何でもない事はないだろう」

麗羅の向こうで寝ていた凍浬が口を挟んできた。

燿炎は凍浬に大声で言う。

「うるせぇ!わざわざ起きてくんな!」

「うるせぇのは燿炎の方じゃねぇか!」

凍浬が大声で言い返した。

麗羅が凍浬を睨んで言う。

「凍浬」

「また叫んでいたのか」

燿炎は独り言の様に呟いた。

そして続けて燿炎が誰ともなしに言う。

「なぁ、真の平和って、なんなんだろうな!?」

「そうね、」

麗羅は相槌を打った。

自身の意見を述べる、凍浬。

「少なくとも露衣土が居る限り、平和なんてものは幻のままだろうな」

「そうか!?」

燿炎は凍浬に短く訊いた。

凍浬も短く応える。

「そうさ」

「俺は露衣土を倒したところで、真の平和が来るとは思えないんだよな」

凍浬の意見に対して、燿炎は疑問を呈した。

燿炎に理由を訊く、麗羅。

「どうして、そう思うの?」

「以前、露衣土と統一戦争を戦っていた時と、今現在、反乱軍として戦っていて、なんら変わりがない様に思うんだ」

燿炎は麗羅の問いに答えた。

凍浬が燿炎の言葉を限定的に肯定する。

「戦っている最中は、そうだろうな」

「そうね、問題はその後をどうするかでしょうね」

麗羅が凍浬の言葉を補足した。

更なる補足する、凍浬。

「露衣土はその後に大きな過ちがあるのさ」

「しかし、それでも同じ事の繰り返しなのではないだろうか」

尚、拭えない疑問を燿炎が口にした。

麗羅は燿炎の疑問に対して、先程と同様の答えをぶつける。

「だから、その後に同じ事を繰り返さない様に、ね」

「じゃあ訊くが、今も尚続く、露衣土の力に依る制裁に疑問は感じないのか?」

今度は凍浬が燿炎に訊いた。

「疑問を感じたからこそ、私達のところへ来たんでしょう」

燿炎が答える前に麗羅が代わりに答えてしまった。

麗羅の言葉に続く様に凍浬が嫌味ったらしく言う。

「もう少し早く気付いていれば、炮炎を死なせずに済んだのかもな」

「それは言わない約束でしょう!」

麗羅が凍浬に怒った。

数瞬の沈黙が三人を包み込む。

燿炎、麗羅、凍浬以外の者達は寝たふりをしたまま、三人のやり取りを聞いていた。

「確かに凍浬の言う通りかもしれないな。炮炎を殺したのは、俺なんだろうな」

沈黙を破って、燿炎が呟く様に言った。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-26 05:18 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話陸/氷の皇帝

露衣土。

氷の大陸にあった浄の国で生まれて、幼少の頃から、よく炮炎や燿炎と行動を共にしていた。

露衣土が成人した事を切っ掛けにして、露衣土と燿炎は力ずくで浄の国の政権を奪い取る為の戦争を始める。

この頃に炮炎は露衣土とは意見を違えて、二人の下を去る事になった。

そして露衣土は浄の国の政権を奪うと、浄の国を露衣土帝国として自らが皇帝に就くやいなや、国家の対立が争いの根源と断定して、約三十年にも渡る統一戦争を繰り広げる事となる。

そして精霊の星にあった全ての国家を手中に収めて、精霊の星を露衣土帝国という一つの国家の下に纏め上げる事になった。

それにより一時的にではあるが、国家間に拠る大規模な紛争が起こる事は無くなって、露衣土は精霊の星の英雄として絶大な支持を得る事になる。

しかし全ての国家を手中に収めたとは言っても、各国家内に散らばる反抗勢力までは制圧するに至らずに、統一戦争終結後、力に依る反抗勢力の掃討を行っていく。

それにより露衣土のやり方に疑問を抱かずにはいられない者も増え始めて、再び各地で紛争が拡がりつつあった。

そんな中で、とある事件が起こってしまう。

その事件を切っ掛けにして、燿炎もまた露衣土の下を去る事になったのである。

そして精霊の星の民衆の間では、露衣土に代わる新たな英雄を待ち望む声も拡がってきていた。

因みに露衣土は世間一般的に『氷の皇帝』と称されていて、氷の精霊の守護を受けていると認識されているが、実は氷の精霊の守護と同時に大地の精霊の守護も受けている。

露衣土にとっては、それが大地の精霊の守護を受けた者を受け入れ続ける最大の理由であったのだが、それらの事は露衣土以外の者には知る由すらなかった。

炮炎や燿炎ですら、その事は知らされていなかったのである。

それというのも、わざわざ自分が何の精霊の守護を受けているのかを他者に明らかにする習慣が無かった。

他者からすれば行使する魔法に拠って、誰が何の精霊の守護を受けているのかを判別する事も出来たからだ。

しかし露衣土は大地の魔法を氷の魔法で凍らせた相手を砕く時にだけ使用していたので、周囲の者が気付かなかっただけである。

周囲の者は氷の魔法で砕いていると思い込んでいた。

実際には如何に露衣土であろうとも、凍らせた相手を氷の魔法で砕く事は出来ない。

そして露衣土も決して、その事を隠していた訳ではなく、露衣土の方は露衣土の方で、すでに周囲には知られているものだと思い込んでいた。

また露衣土はもっと様々な大地の魔法を使おうと思えば使う事は出来たのかもしれないが、凍らせた相手を砕く魔法さえ使う事が出来れば、それ以外の大地の魔法は使う必要が無かったのである。

地震や地割れを起こす様な魔法を使わなくても、氷の魔法で十分に相手を制圧が出来た。

わざわざ周囲にまで被害を出す様な魔法は使う必要が無かったのである。

それが結果的に、露衣土が大地の精霊の守護も受けていると云う事実を隠してしまったのかもしれなかった。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-25 05:20 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話伍/皇帝、城に篭る

氷の大陸、元、浄の国のほぼ中心に此処、露衣土城は建てられていた。

浄の国は氷の大陸の北西にあったので、氷の大陸から東の方角にある炎の大陸までは、かなりの距離がある。

また浄の国のずっと南には風の大陸があって、距離的には炎の大陸よりも近かったのだが、氷の大陸の南側には険しい山脈が連なっており、直接に浄の国と風の大陸を行き来するのは、かなりの危険と困難を共にしなければならなかった。

そして露衣土は露衣土城を拠点にして、統一戦争を戦い抜いたのだが、統一戦争が終わってからというもの、この露衣土城から外へは出なくなっている。

何故なら露衣土が外に一歩でも出ようものなら、英雄として大騒ぎされるか、命そのものを狙われるか、そのどちらかが待っているだけだったからだ。

露衣土は決して命を狙われる事が怖い訳ではない。

英雄として騒がれる事も、命を狙われる事も、ただただ煩わしかったのである。

露衣土は毎日、この城にある自室で部下からの報告を受けたり、部下に指示を出したりと、そんな日常を過ごしていた。

そして今日もまた、露衣土は自室の窓から外の景色をぼんやりと眺めている。

いつも、こうして考え事をするのが露衣土の日課でもあった。

─────

「どうしても行くのか?」

露衣土は炮炎に訊いた。

炮炎は露衣土の問い掛けに応える。

「ああ、もうお前には、ついていけん」

「そうか。止めても無駄な様だな」

露衣土は残念そうに言った。

そんな露衣土を余所に頼み事をする、炮炎。

「それよりも燿炎を頼む」

「それは構わないが、何故、一緒に連れて行かん?」

炮炎の頼みは引き受けた上で露衣土はその事に対する疑問を口にした。

露衣土の疑問に応える、炮炎。

「燿炎が自分の意思でお前と一緒に戦う事を選んだのだ。だから意見を違える俺が去れば、それで済む」

「そうか」

露衣土は短く応えた。

─────

若かりし頃の事を思い出していた、露衣土。

そこへ一人の部下が報告をする為に露衣土の部屋へと入って来る。

「ご報告、致します」

部下の男が露衣土に言った。

自室の窓から外の景色を眺めたまま短く応える、露衣土。

「うむ」

「燿炎等の反乱軍討伐に向かった水沂隊が全滅したとの事です」

部下の男は作戦の失敗を告げた。

露衣土は素っ気なく応える。

「そうか」

「どう致しましょうか?」

部下の男が露衣土に指示を伺った。

露衣土が部下の男の方へ振り返る。

「燿炎の件は全て崙土に任せてある」

露衣土は部下の男に司令官である崙土へ指示を仰ぐ事を示唆した。

「分かりました。では、失礼、致します」

そう言って、部下は露衣土の部屋を出て行った。

露衣土は再び一人きりになると、向きを変えて窓から外の景色を眺める。

そして再び考え事を始めた様だ。

暫くすると、徐に語り始める。

「燿炎よ、何を考えている。私に歯向かったところで、その先に待っているものは死しかない事を、お前は一番、解っているはずだ。平和の為の犠牲を受け止められないのか。だとしたら甘いな、燿炎よ。それとも私の考えの方が甘いと言うのだろうか。いずれにしろ、お前と私のどちらかが命を捧げなければならないのかもしれないな」

露衣土は一人、自室の窓から遥か彼方を眺めていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-24 05:41 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話肆/突然の襲撃

燿炎は再び厳しい表情で烈の河の方を眺めていた。

一本の木に背を預けたまま腕を組んでいる。

その体勢で燿炎は炮炎の事を考えていた。

元々は別に炮炎の事を考えていた訳ではない。

しかし先程、麗羅に炮炎の事を言われた事で、炮炎の事を考えずにはいられなくなっていた。

その麗羅は燿炎のすぐ近くで、その場に座り込んで何も言わず、じっとして居る。

炮炎は燿炎の実の兄であった。

そして麗羅にとっては恋人であったのである。

その炮炎はすでに、この世には居ない。

炮炎の死には少なからず燿炎が関わっている。

それが先程の麗羅の言葉に繋がったのだ。

更に燿炎からすれば、触れられたくない事でもあった。

そして二人は黙ったまま各々、物思いに耽る。

麗羅もまた、炮炎の事を考えているのかもしれない。

そのまま、どれくらいの時間が過ぎたであろうか。

突然に燿炎の眼下に広がる大河が一気に凍り付いた。

それを目の当たりにした燿炎が叫ぶ。

「来たぞ!」

麗羅もすぐさま立ち上がって、何かしら、した様だ。

すると先程まで集まっていた者達が再び集まって来た。

燿炎達の近くに居た者達は燿炎の叫び声を聞き付けて、遠くに居た者達は麗羅のテレパシーに拠り事態を把握して集まって来たのである。

「凍浬、フォローを頼む」

燿炎が集まって来た者達の中の一人に言った。

「任せときな」

呼ばれた凍浬が応えた。

人並みの体格で非常に端正な顔立ちの男である。

大河の方を見ると、凍り付いた大河の上を数十人の者達がこちらへ向かって歩いて来ていた。

更に二人が上空を飛んで来ている。

露衣土帝国正規軍であった。

敵が大河を魔法で凍らせて、燿炎達を襲って来た様だ。

そして、いきなり炎と氷の矢を降り注いでくる。

数は七割程が氷の矢で、残りが炎の矢だった。

また炎と氷の矢に混じって、目で見る事が出来ない、かまいたちも襲って来ている。

そして敵の攻撃の割合はそのまま敵の編成にも繋がる訳で、燿炎を意識しての事なのか、氷の精霊の守護を受けた者が多めであった。

それら敵の攻撃に対して、燿炎と他数人の者達が氷の矢を炎の魔法で焼き払う。

炎の矢は凍浬と他二人の者達が人に当たりそうなものだけ、氷の魔法で消し去った。

かまいたちに因って、数人が傷を負ったが致命傷を負うまでには至っていない。

「今度はこちらの番だぜぇ」

燿炎はそう言いながら敵に向かって、物凄い量の炎を作り出した。

そして続けざまに言う。

「頼む、麗羅」

麗羅は突風を起こして、燿炎が作り出した炎を拡げながら、敵全体にその炎を浴びせる。

あっという間に敵は半数以下になっていた。

上空を飛んで来ていた風の精霊の守護を受けていると思われる者達が二人、炎に焼かれる事のなかった炎の精霊の守護を受けていると思われる者達が数人程。

風の精霊の守護を受けていれば、風の魔法で炎を避ける事が出来るであろう。

炎の精霊の守護を受けている者には、炎の魔法は効き目が無い。

それら残った者達は凍浬が氷の矢で貫く。

燿炎達は難無く敵を退ける事に成功した。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-23 06:20 | 弐章/英雄

弐章/英雄/挿話参/偽善と現実の間で

炎の大陸、元、灼の国にある烈と云う大河の辺にある小さな村。

先の統一戦争に拠り、以前、此処で暮らしていた者達は兵士として駆り出されて、その生死に関しては不明だが、その後、此処で暮らす者は居なくなっていた。

しかし、その様な状況もそう長くは続かない。

三日程前に、とある十数人の者達がこの村にやって来て寝食を共にしていた。

この村は周囲の殆どを熱帯雨林に囲まれており、唯一、視界が開けているのは烈と云う大河の方だけである。

そして一人の男が腕を組んで一本の木に背を預けて、その大河の方を厳しい眼差しで眺めていた。

体格はかなり大きめで、顔立ちは好き嫌いが分かれそうな感じである。

しかし決して醜いという訳では無い。

そこへ一人の女が駆け寄って来る。

小柄で大変に美しい容姿をしていた。

その女が男に声を掛ける。

「何を考えているの?」

「何も考えてなんか、いないさ」

男は素っ気なく応えた。

女が不満そうに言う。

「燿炎って、つまらない男ね」

「悪かったな」

燿炎と呼ばれた男は不機嫌そうに応えた。

再度、女が燿炎に不満をぶつける。

「どうせ炮炎の事でも考えていたんでしょう」

「言うな、麗羅」

厳しい表情で燿炎は言った。

燿炎にとっては触れられたくない事だったらしい。

そこへまた一人、男が駆け寄って来て燿炎に向かって言う。

「来ました」

「映してくれ」

燿炎は応えた。

すると突然、中空に画像が現れた。

そこには一人の男が映し出されている。

そして必死に何かを訴えている様だった。

それを聞き付けてか、周りに人が集まって来る。

画像に映し出された男が何を言っているのか、それは。

『長い長い戦乱の日々を乗り越えて、多くの犠牲の下、やっと手に入れた平和。それを何故、再び戦乱の日々へと戻そうとするのか。反乱軍の者達へ告ぐ、どうか、これ以上、新たな哀しみや憎しみを作り出す事は止めて欲しい』

それを聞いて、周りの者達が騒ぎ出す。

「何、勝手な事を言ってやがるんだ!」

「新たな哀しみや憎しみを作り出してるのは、そっちじゃねぇか!」

「過去はともかく、今も尚続く、この非道の数々。解っているのか!?露衣土よ!!」

周囲の者達は思い思いに画像に映った露衣土という男へ向かって、非難する様な言葉を浴びせていた。

どうやら、この者達と露衣土は敵対関係にあるらしい。

そんな中、燿炎は黙ったまま厳しい表情で画像を睨んでいた。

そして麗羅が燿炎に声を掛ける。

「燿炎も何か言ったら?」

「いや、俺には言う資格はねぇよ」

燿炎は自らを卑下する様に言った。

燿炎の言葉に腹を立てる、麗羅。

「馬っ鹿じゃないの!まだ、そんな事を言ってるなんてさ」

「うるせぇ!」

燿炎も腹を立てた。

再び麗羅が炮炎を引き合いに出して、燿炎を責める。

「何の為に炮炎が犠牲になったと思ってるのよ!」

「それは言うな!」

燿炎は叫んでいた。

画像の中では露衣土が演説を続けていたが、周りの者達は騒ぐのを止めて、その場から思い思いに立ち去って行く。

今、この場にいるのは燿炎、麗羅、そして画像を映し出したと思われる男。

数瞬の沈黙が三人を包み込む。

その沈黙を破って、燿炎が画像を映し出していたらしい男に声を掛ける。

「風電、もういい。ありがとうな」

「では、失礼します」

そう言って、風電と呼ばれた男もこの場から立ち去って行く。

もう中空の画像は消え去っていた。
[PR]
by gushax2 | 2016-05-22 06:28 | 弐章/英雄